倭迹迹日百襲姫命

倭迹迹日百襲姫命：古代日本の謎めいた皇族

倭迹迹日百襲姫命（やまとととひももそひめのみこと）は、古代日本を彩った謎多き皇族です。記紀（『日本書紀』と『古事記』）に記される彼女は、第7代孝霊天皇の皇女であり、大物主神（三輪山の神）との神婚譚や、巨大な前方後円墳である箸墓古墳（奈良県桜井市）の伝承で知られています。巫女的な側面も持ち合わせていたと考えられており、その生涯は多くの謎に包まれています。

幾重にも重ねられた謎めいた名前

まず注目すべきは、彼女の複雑な名前です。『日本書紀』では「倭迹迹日百襲姫命」、「古事記』では「夜麻登登母母曽毘売」と表記され、その表記ゆえに様々な解釈がなされてきました。「トトビ」、「モモ」、「ソ」といった音の持つ意味を巡り、鳥や百、桃、十といった説が唱えられ、彼女の名前が持つ意味を探る試みは今もなお続いています。さらに、『日本書紀』には「倭迹速神浅茅原目妙姫」という人物が登場しますが、この人物も百襲姫と同一人物とする説が有力視されています。本居宣長も独自の解釈で、孝元天皇の皇女である「倭迹迹姫命」を百襲姫と同一視する説を提示している点も興味深いところです。

系譜と兄弟

孝霊天皇と倭国香媛との間に生まれた皇女であるという系譜も、百襲姫の謎を解く重要な要素です。同母兄弟には、彦五十狭芹彦命、倭迹迹稚屋姫命がおり、『古事記』ではさらに日子刺肩別命という兄弟も記録されています。これらの兄弟姉妹との関係性、そしてそれぞれの役割についても、今後の研究が待たれます。

神託と予言、そして謀反

『日本書紀』には、百襲姫が神託を伝える場面が複数記録されています。崇神天皇7年、国中に災害が相次いだ際、天皇が神々に占いを求めたところ、百襲姫に大物主神が憑依し、大物主神を敬い祀るように告げたと記されています。また、同じ書物には、百襲姫が夢で神託を受け、大物主神と倭大国魂神の祭主を定めたと記されています。さらに、不思議な歌を詠う少女の話を聞いた百襲姫が、その歌を武埴安彦とその妻の謀反の前兆と見抜き、その謀反を鎮圧したという逸話も存在します。これらの神託や予言は、百襲姫が特別な力を持つ人物であったことを示唆しています。

三輪山と箸墓古墳の伝説

百襲姫と深く関わる伝説として、三輪山と箸墓古墳の伝説があります。『日本書紀』によると、百襲姫は大物主神の妻となりましたが、大物主神は夜しか姿を現さず、百襲姫が昼間に姿を見たいと願ったことから、ある出来事が起こります。翌朝、大物主神は櫛笥の中に小蛇の姿で現れましたが、百襲姫の驚きによって大物主神は恥じて三輪山に登ってしまいます。後悔した百襲姫は、その場で亡くなり、「大市」に葬られました。この墓が後に「箸墓」と呼ばれるようになり、昼は人、夜は神が作ったと伝えられるようになったのです。この伝説は、神と人間の交流、そしてその悲しい結末を描いた物語として、後世に語り継がれてきました。

箸墓古墳：卑弥呼の墓か？

百襲姫の墓とされる箸墓古墳は、全長278メートルにも及ぶ巨大な前方後円墳です。この規模から、邪馬台国の女王・卑弥呼の墓とする説も存在し、大きな議論を呼んでいます。しかし、古墳の築造年代や、伝承の変遷を考えると、百襲姫の墓として単純に受け取ることはできない可能性もあります。この古墳が築かれた時代、そしてそこに葬られた人物の真の姿を知るためには、さらなる研究が必要です。

神婚譚と卑弥呼との関連性

百襲姫の物語は、人と蛇神との神婚譚として解釈されます。これは、古代の婚姻習俗を反映していると考えられています。さらに、卑弥呼を百襲姫と同一視する説もあり、歴史研究において重要な論点となっています。卑弥呼の墓を箸墓古墳とする説も存在し、この点においても、今後の更なる研究と検証が求められます。

吉備津彦信仰と各地の神社

百襲姫は、吉備津彦命の姉神として扱われるため、吉備地方を中心に信仰されています。特に讃岐国では、水神として祀られることが多く、田村神社や水主神社、艪掛神社など、複数の神社で主祭神として信仰されています。これらの神社の伝承には、百襲姫が大和国から讃岐国へ逃れてきたという物語も含まれており、彼女の生涯の謎を解き明かす上で重要な手がかりとなる可能性があります。

結論

倭迹迹日百襲姫命は、その名前、系譜、神婚譚、そして箸墓古墳との関係など、数多くの謎に包まれた古代日本の皇族です。歴史的記録や考古学的知見を総合的に検討することで、彼女の生涯や役割をより深く理解できる可能性があります。しかしながら、現時点では未解明の部分も多く、今後の研究によって新たな知見が得られることに期待したいところです。

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