偕楽園 (札幌市)

偕楽園（かいらくえん）

偕楽園は、かつて北海道札幌市に存在した公園です。札幌で最も古い都市公園であり、その歴史は明治初期に遡ります。日本には他にも古い公園がありますが、それらは既存の名勝地を公園として改めたものが多く、偕楽園は、意図的に造られた都市公園としては日本最古とされています。

現在は、都市緑地「偕楽園緑地」として整備され、市民の憩いの場となっています。

歴史

1871年（明治4年）、開拓使の判官であった岩村通俊によって偕楽園は開かれました。当時の札幌は北6条が北端であり、偕楽園は郊外に位置していました。この地は原生林に覆われており、アイヌ語で「野の傍の泉池」を意味する「ヌㇷ゚・サㇺ・メㇺ」という湧水池からの豊富な水と、サクシュコトニ川をはじめとする多くの小河川が流れていました。

偕楽園の命名者は薄井龍之で、日本三名園の一つである水戸の偕楽園を参考にしたとされています。さらに遡ると、『孟子』の一節である「古の人は民と偕（とも）に楽しむ」という言葉に由来しています。

偕楽園は単なる憩いの場としてではなく、産業振興の拠点としての役割も担っていました。園内には様々な施設が設けられ、その活動を支えていました。1880年（明治13年）には、貴賓接待所として清華亭が建設され、翌年には明治天皇の行幸を迎えました。

しかし、札幌の発展に伴い、偕楽園に集約されていた施設は分散していきました。1887年（明治20年）以降、中島[[公園]]が本格的に整備されるにつれて、偕楽園の存在感は薄れていきました。また、南側に幌内鉄道が開通したことで市街化が北へ広がるのを阻害し、衰退に拍車をかけました。

1898年（明治31年）、清華亭を含む一帯は対馬嘉三郎に払い下げられ、偕楽園は私有地となりました。翌年には、斉藤いくが池畔の博物所を改装し、料亭「偕楽亭」を開業。清華亭は集会場として利用されました。斉藤は後に本拠を移転して成功しましたが、清華亭と偕楽亭は客足が途絶え、閉店しました。その後、地主の対馬が東京に移ると、偕楽亭はただの借家となりました。

札幌の人口が急増する中で、偕楽園は子供たちの遊び場となりましたが、大正時代には宅地化が進みました。資産家たちが狭い路地に「偕楽園廉売市場」を設けて賃貸したことで、さらに人家が密集しました。

かつて鮭が遡上していたサクシュコトニ川も生活排水で汚染されてしまいましたが、1950年（昭和25年）頃までは水源の一つであった「ヌㇷ゚・サㇺ・メㇺ」は枯渇しておらず、有志によって「井頭竜神」の祠が建てられました。しかし、翌年には都市開発の影響で水脈が枯渇し、回復することはありませんでした。その後も水神信仰は続き、1953年（昭和28年）には祠堂が造営されました。

やがて、池も自然に埋まり、その跡地は「琴似サクシ広場」と呼ばれるようになりました。1979年（昭和54年）に一帯は整備され「かいらくえん公園」となり、水神祠もその一角に移されました。そして2002年（平成14年）、「偕楽園緑地」として再整備されました。

施設

偕楽園には、様々な産業振興のための施設がありました。

試験場

1871年（明治4年）、園に隣接する土地に「蔬菜果樹栽培試験場」が開設されました。1877年（明治10年）にはぶどう園も開かれ、「御手作場」や「偕楽園試験場」とも呼ばれました。試験場の面積は拡大を続け、最終的には40万坪以上に達しました。

育種場

1878年（明治11年）、試験場の一部に各種農作物を栽培する植物園が設けられました。その面積は13万3000坪でした。

競馬場

馬産を奨励するため、当時は官業として競馬が行われており、育種場内には楕円形の競馬場がありました。この競馬場は1887年（明治20年）に中島[[公園]]に移設されました。

博物所

1872年（明治5年）、物産奨励のため、北海道の動植物や鉱物を展示する小屋が設けられました。1878年（明治11年）に増改築され、仮博物場となりました。この博物所は、現在の北海道大学博物館の前身であり、後に北海道大学植物園に移設されました。

製物場

1878年（明治11年）に設置された、北海道初の工業試験場です。馬そりや荷馬車などを製作し、陸上輸送の発展に貢献しました。また、トウモロコシ稈製糖や馬鈴薯澱粉の製造といった、当時としては珍しい試験も行われていました。

生徒館

農業技術を伝習させるために地方から呼び寄せられた青年たちの寄宿舎、または職夫舎と考えられています。

鮭孵化場

北海道における魚卵孵化事業の原点となる施設です。サクシュコトニ川を遡上する鮭を捕獲し、採卵を行っていました。アメリカ人技師の指導の下、1877年（明治10年）から試験が行われました。

花室

開拓使が園芸指導者ルイス・ベーマーに与えたものとされています。この花室も、博物所と同様に後に北大植物園に移設されました。

屯田兵招魂之碑

1878年（明治11年）7月、西南戦争で戦死した屯田兵を祀るために建立されました。題字は有栖川宮熾仁親王によるものです。毎年8月2日、3日には招魂祭が執り行われ、札幌神社例大祭と並ぶ札幌の二大祭日となっていました。1907年（明治40年）に日露戦争の戦死者を合祀し中島[[公園]]に移設、さらに1939年（昭和14年）に札幌護国神社へ移されました。

開拓記念碑

高さ2.7メートル、幅1.6メートルの安山岩でできた碑です。本願寺道路開削の際に掘り出されたもので、題字は榎本武揚の書によるとされています。1886年（明治19年）9月に建立されましたが、1899年（明治32年）に大通公園に移設されました。

官邸

園内には、松本十郎判官の官邸があったとされています。松本は花木の育成を推奨しており、官邸は「お花屋敷」と呼ばれていました。

コタン

1935年（昭和10年）に発表されたアイヌの昔話によると、かつて石狩川の大洪水から逃れてきたアイヌの人々が、後に偕楽園となる場所に集落を形成したとされています。1882年（明治15年）の「偕楽園図」にはアイヌの住宅「土人家」が描かれていますが、これは1879年（明治12年）に香港総督の要請で造られた復元家屋であり、樺太アイヌが従事しました。2017年（平成29年）の調査で、1879年（明治12年）にドイツ人旅行者がアイヌの人骨を盗掘した場所が偕楽園であったことが明らかになっています。

ギャラリー

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脚注

参考文献

『豊平館・清華亭』北海道新聞社〈さっぽろ文庫15〉、1980年11月1日。
『札幌の碑』北海道新聞社〈さっぽろ文庫45〉、1988年6月29日。ISBN 4-89363-044-X。
関秀志 編『札幌の地名がわかる本』亜璃西社、2018年11月16日。ISBN 978-4-906740-34-5。

外部リンク

偕楽園図(超高精細画像) - 北海道大学附属図書館北方資料データベース)

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