億万長者 (映画)

『億万長者』

『億万長者』（おくまんちょうじゃ）は、1954年11月22日に公開された日本映画で、新東宝が手掛けました。青年俳優クラブによる自主制作であり、同時上映には『最後の女たち』がありました。この作品は、久我美子が毎日映画コンクールの女優助演賞を受賞したことでも知られています。

概要

本作は、官僚汚職や政治腐敗、さらには原水爆問題といった社会の暗黒面を、軽妙なブラックユーモアを交えながら描き出すドタバタ喜劇です。主演の木村功は、広島における原子爆弾投下によって家族を失い、その体験が彼の演技に深みを与えています。監督は市川崑が務めており、木村が彼を起用しました。

当初、本作は織本順吉を主役に持ち込む予定で、彼が出演するマルセル・パニョルの舞台『トパーズ』を映画化する計画がありました。しかし、最終的には脚本と監督の方向性に食い違いが生じ、急遽、和田夏十による新たな脚本が整えられました。脚本には安部公房や横山泰三といった名が加わり、作品の完成に寄与しました。

演出と撮影

撮影は、シュールな小道具を用いつつも、ロケ中心のリアリズムを追求する独特のスタイルが特徴です。これにより、観る者に強烈な印象を与えることに成功しています。使用されたカメラは新藤兼人がリーダーを務める近代映画協会から借りたアリフレックスで、ニュース映画用に製造されたものでした。

配給とクレジットの逸脱

本作には監督名がクレジットされていないため、その背景には複雑な事情があります。当初、松竹系での配給が決まっていましたが、最終的には新東宝に変更されました。その際、プロデューサーが監督市川の同意を得ないまま、重要なラストシーンをカットする条件を受け入れたため、抗議の意を込めて市川は自らの名をクレジットしないことを決定しました。

時代背景

1954年という年は、第五福竜丸の水爆被曝事件などが発生し、原水爆問題への関心が強まっていた時期です。この背景は、作品の内容と深く結びついており、当時の社会の矛盾を浮き彫りにする重要な要素となっています。同年には『ゴジラ』の第一作も制作され、やはり水爆実験をテーマとしていることから、社会的な警鐘を鳴らす作品が多く生まれました。

あらすじ

物語は、無口で小心者の税務署徴税係の館香六が、不正摘発に目覚めるところから始まります。彼は、広島の原爆で家族を失った鏡すてと共に、貧困にあえぐ贋十二夫婦や悪徳政治家の団海老蔵、さらには策略家の芸者花熊といった個性豊かなキャラクターたちと共に、戦後の社会問題を独特の感覚で描き出します。

脱税や収賄、さらには急激な人口増加と貧困格差、原水爆問題など、戦後の矛盾を鋭く風刺しつつ、切実なメッセージを観客に届けます。全体を通して、社会への問いかけや反省を促す内容にもなっています。

スタッフ・キャスト

監督：市川崑（オリジナルフィルムでは無表記）
脚本：市川崑（実際は和田夏十が担当）
脚本協力：安部公房、横山泰三、長谷部慶次、和田夏十
企画：本田延三郎
音楽：團伊玖磨
撮影：伊藤武夫
照明：平田光治
美術：平川透徹
録音：安惠重遠
編集：河野秋和
助監督：小林太平
製作主任：浅野正孝

キャストたちも多彩で、木村功（舘香六役）、久我美子（鏡すて役）、伊藤雄之助（団海老蔵役）などが名を連ねています。作品は、ただの喜劇に留まらず、観る者に深い考察を促すものとなっています。多くの言及がなされる中で、この映画は日本映画史においても重要な位置を占める作品の一つとして語り継がれています。

もう一度検索