本田延三郎

本田延三郎：演劇界の巨匠、波乱の生涯

本田延三郎（1908年-1995年）は、20世紀日本の演劇・映画界に大きな足跡を残したプロデューサーです。北海道函館市生まれ。幼くして父を亡くし、厳しい環境の中で育ちました。函館商業学校卒業後、上京し、東京左翼劇場に入団。小道具係として演劇の世界に足を踏み入れました。

1930年代、盛んだったプロレタリア演劇運動に身を投じます。日本プロレタリア劇場同盟書記長を務めた彼は、治安維持法違反容疑で3度にわたり逮捕され、獄中で3年半を過ごしました。この活動の中で、有名な作家・小林多喜二氏と同時期に収監された経験も持ちます。多喜二氏の拷問死に関して、本田氏の「自白」が関係したとの噂も流れたものの、本人は生涯にわたって沈黙を貫きました。

戦後、本田延三郎は俳優座などの経営に参画し、演劇界での活動を続けました。1952年から1970年にかけては劇団青俳を経営、その後1971年には演劇プロデュース会社五月舎を設立。演劇プロデューサーとして精力的に活動を展開します。

その功績は高く評価され、1976年には日本新劇製作者協会協会賞、1981年には紀伊國屋演劇賞特別賞を受賞しました。数々の舞台作品をプロデュースする一方、映画制作にも携わり、『日の果て』、『億万長者』、『米』など、多くの作品を世に送り出しました。東映作品への企画参加も多く、その数は多岐に渡ります。

五月舎設立後は、プロデューサーとして幅広い作品を手がけました。代表的な作品として、井上ひさし作の舞台『藪原検校』や『イーハトーボの劇列車』のプロデュースが挙げられます。また、テレビドラマにおいても、『初夜』、『下町の青春』、『雨のひまわり』など、今井正監督作品のプロデュースで知られています。

彼の活動は、単なる演劇・映画制作にとどまりません。新劇協同社の設立や、青年俳優クラブ（後の劇団青俳）の設立参加など、演劇界全体の活性化にも貢献しました。

1995年、心筋梗塞のため東京都狛江市にて死去。享年86歳。彼の娘である青木笙子氏は作家であり、父・本田延三郎の評伝『沈黙の川』を執筆。この作品は小島信夫文学賞特別賞を受賞し、本田延三郎の生涯と業績を後世に伝えています。

本田延三郎は、激動の時代を生き抜き、常に演劇への情熱を持ち続けた人物でした。政治弾圧、経済的困難、数々の困難に直面しながらも、演劇界に貢献し続け、多くの作品を生み出しました。その波乱に満ちた生涯は、日本の演劇史に深く刻まれています。

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