光岡・オロチ

光岡オロチ：日本神話から生まれた唯一無二のスーパーカー

光岡自動車が製造・販売した「オロチ」は、その独特のデザインと希少性から、日本の自動車史に名を刻む一台です。同社はオロチを「ファッションスーパーカー」と位置づけ、スーパーカーとしての性能だけでなく、所有する喜びや個性を重視した設計思想が反映されています。

圧倒的な存在感：デザインとメカニズム

オロチの最大の特徴は、なんといってもそのエクステリアです。日本神話に登場するヤマタノオロチを彷彿とさせる有機的なフォルムは、他の追随を許さない独創性にあふれています。全長4,560mm、全幅2,035mm、全高1,180mmという堂々たるボディサイズは、日本の市販車においてトヨタ・メガクルーザーに次ぐ圧倒的な存在感を誇ります。

光岡自動車の他の車種とは異なり、オロチは自社製のフレームを採用。ベース車両を持たないゼロからの開発は、同社にとって「ゼロワン」以来となる一大プロジェクトでした。パワートレインにはレクサスRX330に搭載されていた3.3L V型6気筒エンジンとアイシン製5速ATを組み合わせ、横置きミッドシップレイアウトを採用。当初はホンダNSXのパワートレイン供給を検討していましたが、欧米の排ガス規制強化によるNSXの生産終了により断念せざるを得ませんでした。

興味深いのは、様々な部品の流用です。ステアリングホイールやエアバッグモジュールはスズキ製、ブレーキはホンダ・レジェンド用、外装パーツにはマツダ・ロードスター用など、複数のメーカーの部品が巧みに組み合わされています。この点からも、オロチがいかに独自の開発体制で生まれたかが伺えます。

233馬力のエンジン出力は、スポーツ走行を重視した設計とは言えませんが、青木孝憲氏によるデザインコンセプト「ファッションスーパーカー」に基づき、日常的に利用できるスーパーカーを目指した結果です。そのため、静粛性や快適性を重視したエンジン設定や足回り、シートの設計となっており、走行性能よりも居住性の快適さを優先しています。ミッドシップレイアウトでありながら、ボディサイズに対してエンジンが比較的小型であるため、シート後部には荷物を置くスペース、そしてエンジンとリアエンドの間に小型のトランクも確保されています。ATのみの設定としたのは、日本の道路事情を考慮し、型式認定のコストを抑えるためです。

開発から生産終了まで：オロチの歴史

オロチの誕生は、2001年の東京モーターショーまで遡ります。ホンダNSXをベースとしたコンセプトカーとして初公開されると、予想をはるかに超える反響を呼び、商品化が決定されました。2003年の東京モーターショーでは、保安基準に適合した第二のコンセプトカーが展示され、市販化に向けた開発が進められました。

2005年の東京モーターショーで市販化が発表されると、2006年10月より予約受付が開始。400台の完全受注生産で、ボディカラー約300色、内装色25色から選択可能という、まさにオーダーメイドに近い販売方式となりました。手作業による生産のため、最終モデルの完成まで4年を要し、2007年4月から納車が開始されました。

2008年には、コストを抑えた廉価版「オロチ・ゼロ」、そしてカーボンエアロパーツを装着した限定車「オロチ・カブト」が発表されました。さらに2009年にはリッケンバッカー社とのコラボレーションモデル「オロチ・リッケンバッカー」が限定販売され、2010年には豪華仕様の「ゴールドプレミアム」も登場しました。

しかし、保安基準の変更や部品供給の都合などから、2014年4月に生産終了が発表されました。最終モデル「ファイナルオロチ」は5台限定で販売され、光岡オロチの歴史に幕を閉じました。その後も、セブン-イレブンとのコラボレーションによる「エヴァンゲリオン オロチ」や「デビルマン オロチ」といった限定モデルが登場するなど、その人気は生産終了後も衰えることはありませんでした。

光岡オロチ：日本の自動車史に残る一台

光岡オロチは、その独創的なデザイン、そして限定生産という希少性から、日本の自動車史に深く刻まれた一台と言えるでしょう。単なる移動手段を超えた、所有する喜びや個性を表現する「ファッションスーパーカー」というコンセプトは、現在でも多くの自動車ファンに語り継がれています。生産終了から数年経った現在でも、中古車市場において高い人気を誇り、その存在感を示し続けています。

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