光達距離

光達距離とは

光達距離（こうたつきょり）は、灯台などの航路標識の光が、夜間や視界が制限された状況下で、航海者から視認できる最大の距離を示す重要な指標です。海上での距離を表す海里を単位とします。航海者が安全に位置を把握し、航路を定める上で不可欠な情報です。

この光達距離には、主に以下の三種類があります。それぞれが異なる算出基準に基づいています。

1. 光学的光達距離

光学的光達距離（こうがくてきこうたつきょり）は、大気が非常に澄んでおり、視界が極めて良好な理想的条件下における、光の理論上の最大到達距離です。光源の明るさ、大気の透明度（視程）、そして人間の目が感知できる光の限界（限界可視照度）から計算されます。計算基準として、大気透過率0.85に相当する18～23海里の視程や、限界可視照度2×10^-7ルクスが用いられます。これは、快晴の夜など、最も視界が良い状況を想定した距離です。

2. 名目的光達距離

名目的光達距離（めいもくてきこうたつきょり）は、一般的な航海時に遭遇する比較的良好な気象条件下での、実用的な視認距離です。算出要素は光学的光達距離と同様ですが、視程が異なります。基準となる視程は、大気透過率0.74に相当する10海里と設定されています。これは、晴れた暗夜など、現実的な状況下で光が視認できると期待される距離です。

この名目的光達距離の計算方法は、国際基準に合わせるため、2003年（平成14年）4月1日に改正されました。改正後は、明滅するリズム光の特性を考慮した「実効光度」を用いた計算が採用されており、これを「実効光度を用いた名目的光達距離」と呼ぶこともあります。

3. 地理的光達距離

地理的光達距離（ちりてきこうたつきょり）は、地球の丸みや地形によって光が遮られることによる、物理的な視認限界距離です。気象条件には左右されず、観測者の眼の高さ（眼高）と灯台の光源の高さ（灯高）のみで決まります。具体的な計算は、眼高hメートル、灯高Hメートルに対し、およそ $2.083 \times (\sqrt{h} + \sqrt{H})$ 海里で求められます。航海用の灯台表などでは、観測者の眼高を平均水面上5メートルと仮定して計算された値が一般的に用いられています。

灯台表と海図への記載

海上保安庁発行の「灯台表」には、各灯台について光学的光達距離、名目的光達距離、地理的光達距離の全てが掲載されています。

一方、「海図」には、スペースの制約から、特定の種類の光達距離のみが記載されます。かつては光学的光達距離と地理的光達距離のうち短い方が示されていました。しかし、2003年（平成14年）4月以降に刊行された海図では、名目的光達距離と地理的光達距離のうち短い方が記載されるように変更されました。これは、より現実的な視認性を重視する方針転換と言えます。

改正に伴う影響

2003年4月1日の名目的光達距離の計算方法改正は、表示上の光達距離の値に影響を及ぼしました。多くの灯台で、表示される光達距離が改正前の値よりも短縮される結果となりました。

例として、改正前39.5海里で日本最長とされた余部埼灯台（兵庫県）は、改正後23海里（約43km）に修正されました。これにより、26海里（約49km）を持つ室戸岬灯台（高知県）が日本一となりました。しかし、これは計算方法の変更によるものであり、灯台自体の光の強さや性能が変わったわけではありません。航海者は、これらの異なる種類の光達距離の意味を理解し、実際の視界に応じて適切に判断することが重要です。

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