免疫増強薬

免疫増強薬は、生体が本来持つ免疫システムのはたらきを強化したり活性化させたりする物質の総称です。免疫賦活薬とも呼ばれ、医薬品や特定の栄養素などがこれに含まれます。これらの物質は、体内に侵入した異物（ウイルスや細菌など）や異常な細胞（癌細胞など）を排除するために働く免疫応答を促進することを目的としています。

具体的には、免疫応答の中心的な役割を担うT細胞などのリンパ球の増殖を促したり、病原体や異物を貪食・処理するマクロファージといった免疫細胞の活性を高めたりすることで、生体の免疫力を向上させると考えられています。

用途

免疫増強薬は、免疫機能が低下している様々な病態に対して使用されます。例えば、ウイルス感染症や悪性腫瘍（癌）などによって免疫反応が抑制されている状況において、免疫システムを再活性化させ、病気に対する抵抗力を回復させるために用いられることがあります。

また、特定の抗原（例えばワクチンの成分となる病原体の一部）とともに投与されることで、その抗原に対する免疫反応を効率的に誘導・増強する物質があります。これらはアジュバントと呼ばれ、ワクチンの効果を最大限に引き出す目的で広く利用されています。アジュバントも免疫増強薬の一種とみなされます。

分類

免疫増強薬は、その作用機序によって大きく二つの種類に分類されます。

1. 特異的免疫増強薬:
特定の抗原（例えばワクチンの抗原や、癌細胞に特有の分子）に対してのみ、その抗原に特異的な免疫応答を誘導・増強するものです。ワクチンそのものや、特定の抗原を体内に提示する治療法などがこれに含まれます。抗原の種類に応じた的確な免疫反応を引き出すことを目的とします。

2. 非特異的免疫増強薬:
特定の抗原に対する反応性とは無関係に、免疫システム全体あるいはその構成要素を刺激するものです。これにより、様々な抗原に対する免疫反応を底上げしたり、抗原特異性を持たない自然免疫系の細胞（マクロファージやNK細胞など）を活性化したりします。アジュバントの一部や、後述する非特異的免疫賦活剤がこのカテゴリーに該当します。

非特異的免疫増強物質

非特異的な免疫増強作用を持つ物質には、私たちの体内に存在する内因性物質と、化学的に合成された物質などがあります。

内因性物質:
体内に naturally に存在する物質の中にも、免疫システムに影響を与え、その働きを非特異的に高めるものが複数知られています。例えば、女性ホルモンは適応免疫と自然免疫の両方を刺激する作用を持つことが示されており、自己免疫疾患の一部が女性に多いことや思春期の発症と関連があることが指摘されています。他にも、プロラクチンや成長ホルモン、ビタミンDといったホルモン類も免疫系の複雑な調整に関与していると考えられています。
また、消化管内で生成される二次胆汁酸であるデオキシコール酸（DCA）が、非特異的免疫系の中心的な役割を担うマクロファージを活性化させるという研究報告もあり、体内のDCA量が適切に保たれていることが、非特異的な免疫反応の良好な維持に貢献する可能性が示唆されています。

合成免疫増強薬:
化学的に合成された物質にも、非特異的な免疫増強作用を持つものが開発されています。例えば、イミキモドやレシキモドは、免疫細胞の表面に存在するToll様受容体7（TLR7）を刺激することで、様々な免疫細胞を活性化させることが知られています。また、イノシンプラノベクスは、T細胞の機能を特異的に活性化させることで、免疫応答を強化するとされています。

代替医療における言説

一部の健康食品販売業者や、カイロプラクティック、ホメオパシー、鍼灸などの代替医療の実践者の間では、特定の製品や手法が免疫系を刺激し、「高める」効果があると主張されることがあります。しかし、これらの主張の多くは、科学的に十分に検証された効果の証拠や、作用機序に関する意味のある説明を欠いている場合が多いことに注意が必要です。

関連用語

免疫増強薬や免疫システムに関連する重要な概念として、抗原、共刺激分子、免疫原性、アジュバント、免疫調節剤、免疫療法などがあります。これらの用語を理解することは、免疫増強薬の働きや医療におけるその役割をより深く理解するために役立ちます。

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