児玉一造

児玉一造：近代日本の綿業を牽引した実業家

児玉一造（こだま いちぞう、1881年3月20日 - 1930年1月30日）は、明治から大正時代にかけて活躍した日本の実業家です。彼は東洋綿花株式会社（後のトーメン、現・豊田通商）を創設し、綿業界の再建に大きく貢献しました。また、輸出綿糸組合を結成するなど、業界全体の発展に尽力し、豊田紡織や三井物産の取締役、大阪市教化委員、資源審議会委員など数々の要職を歴任しました。

生い立ちと初期のキャリア

児玉一造は、滋賀県犬上郡彦根町（現在の彦根市）で、児玉貞次郎と美衛の間に生まれました。幼少期は腕白な性格で、小学校を一時退学になるなど、型破りな一面を見せていました。しかし、学業においては作文で賞を受賞するなど、優れた才能を発揮しました。

近江銀行に就職後、学歴の必要性を痛感し、泰西学館で猛勉強しました。滋賀県立商業学校への編入試験に合格し、銀行を退職して勉学に励みました。商業学校時代には、学生ストライキに反対するなど、信念を貫く姿勢を示しました。

三井物産での活躍

東京高等商業学校への進学は叶いませんでしたが、静岡県立商業学校の助教諭を経て、三井物産の支那研修生として中国・厦門に赴任します。そこで中国語と台湾語を習得し、その語学力を活かして頭角を現しました。藤原銀次郎に見出され、若くして厦門出張所長に抜擢されるなど、その才能を発揮しました。

日露戦争中には、台湾総督府からの依頼で米20万石の調達を成功させました。また、台湾の製糖事業発展にも貢献しましたが、その過程で不当な噂を立てられ、退去命令を受ける危機に瀕しました。しかし、後藤新平に直接訴え、その信頼を得ることで事態を打開しました。

ヨーロッパでの経験と帰国

中国での実績が認められ、ロンドン支店勤務を命じられ、ドイツ・ハンブルク出張所長に就任しました。ハンブルクでは、現地スタッフへの指導を通じて、語学力を磨き、現地のビジネスを深く理解しました。満州大豆に着目し、ヨーロッパへの輸出事業を構築するなど、新たなビジネスチャンスを開拓しました。

帰国後、園田孝吉の娘と結婚し、再びロンドン支店に勤務しました。その後、名古屋支店長に就任し、豊田佐吉や服部兼三郎ら地元の有力者と交流を深めました。豊田佐吉の自動織機開発を支援し、弟の利三郎を豊田家の婿養子に迎え入れました。

東洋綿花の設立と業界への貢献

岡常夫の推薦を受け、大阪支店綿花部長に就任しました。第一次世界大戦後の経済不況の中、綿花相場の乱高下を懸念し、三井物産から綿花部門を独立させることを提唱しました。1920年、東洋綿花(株)を設立し、専務取締役に就任しました。

東洋綿花での活動に加え、綿花関連事業全体の発展にも尽力しました。世界恐慌を前に、綿花事業者の信用力強化と輸出振興のため、綿糸輸出組合の設立に奔走しました。インド視察を通じて日印間の無電開通に貢献するなど、国際的な視野を持って活動しました。

その後

関西の綿糸業界・財界で幅広く活躍し、豊田紡織・三井物産取締役などを兼任し、様々な公職を歴任しました。故郷である滋賀県の県立工業学校や彦根高等商業学校の建設にも尽力しました。これらの功績が認められ、紺綬褒章や勲四等瑞宝章を受章しました。

1930年1月、東洋綿花会長として株主総会を終えた後、急逝しました。死因は胃潰瘍でした。児玉一造の死は、日本の綿業界にとって大きな損失でした。

児玉一造は、その卓越した語学力、先見の明、そして何よりも情熱を持って、日本の綿業界の発展に大きく貢献しました。彼の功績は、今日の豊田通商の礎となっています。

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