全ドイツ労働者協会

全ドイツ労働者協会（ADAV）とは

全ドイツ労働者協会（Allgemeiner Deutscher Arbeiterverein, ADAV）は、1863年5月23日にフェルディナント・ラッサールによって創設された、ドイツ初の労働者政党です。その設立は、ドイツにおける労働運動の幕開けを告げる出来事であり、後のドイツ社会民主党（SPD）へと繋がる重要な一歩となりました。

設立の背景とラッサールの思想

1860年代初頭のドイツでは、産業革命の進展とともに労働者階級が形成されつつありましたが、彼らの権利は十分に保障されていませんでした。そのような状況下、ラッサールは労働者の地位向上を目指し、独自の社会主義思想を提唱します。彼の思想の中心は、国家の支援による労働者のための生産組合の設立であり、それを通じて労働者が「賃金の鉄則」から解放されることを目指しました。ラッサールは、その実現のためには普通選挙の導入が不可欠であると考え、そのための政治組織として全ドイツ労働者協会を設立したのです。

協会の活動とビスマルクとの関係

ラッサールは、協会の設立後、精力的に活動を展開し、労働者の支持を集めました。しかし、彼の活動は、当時のプロイセン王国首相であったビスマルクとの関係という複雑な側面も持っていました。ラッサールは、ビスマルクに普通選挙の導入を働きかけ、一定の協力関係を築こうとしましたが、そのことが後に協会内部の対立を生む要因ともなりました。

マルクスとの対立と協会の分裂

ラッサールの思想は、カール・マルクスをはじめとする他の社会主義者たちとの間で論争を引き起こしました。マルクスは、ラッサールの国家社会主義的な傾向を批判し、労働者階級の自主的な解放を主張しました。ラッサールの死後、協会は彼の後継者たちによって運営されますが、ラッサールの路線を巡る対立は深まり、ついには分裂へと至ります。

ドイツ社会主義労働者党への合流

1875年、全ドイツ労働者協会は、マルクス派の社会民主労働党（SDAP、通称「アイゼナハ派」）と合同し、ドイツ社会主義労働者党（SAP）を結成します。この合同は、ドイツ労働運動における統一の第一歩となりました。ドイツ社会主義労働者党は、その後、社会民主党（SPD）へと発展し、現代ドイツの政治において重要な役割を果たしています。

全ドイツ労働者協会の意義

全ドイツ労働者協会は、短命な組織でしたが、ドイツ労働運動の歴史において重要な役割を果たしました。同協会は、労働者階級の政治的意識を高め、彼らの権利獲得のための組織的な活動の必要性を示しました。また、その活動は、後のドイツ社会民主党の成立と発展に大きな影響を与えました。ラッサールの思想は、今日においても評価が分かれるところですが、彼の労働運動に対する貢献は否定できないでしょう。

参考資料

江上照彦『ある革命家の華麗な生涯 フェルディナント・ラッサール』社会思想社、1972年。
カー, E・H 著、石上良平 訳『カール・マルクス その生涯と思想の形成』未来社、1956年。
須藤博忠『ドイツ社会主義運動史―附オーストリア社会主義運動史』日刊労働通信社、1968年。
秦郁彦 編『世界諸国の組織・制度・人事　1840―2000』東京大学出版会、2001年。
林健太郎『ドイツ史論文集 (林健太郎著作集)』山川出版社、1993年。
メーリング, フランツ 著、足利末男 訳『ドイツ社会民主主義史 下巻』ミネルヴァ書房、1969年。
* リヒター, アドルフ 著、後藤清 訳『ビスマルクと労働者問題 憲法紛争時代においての』総合法令、1990年。

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