八つ墓村 (1996年の映画)

映画『八つ墓村』の詳細解説

1996年に公開された映画『八つ墓村』は、横溝正史の同名小説を原作とするミステリー作品です。市川崑監督がメガホンを取り、豊川悦司が金田一耕助を演じています。石坂浩二主演の金田一耕助シリーズを手掛けた市川監督が、17年ぶりに金田一映画に挑んだ作品としても注目されました。

概要

この映画は、原作の物語を簡素化しつつも、比較的忠実に描かれています。特に、原作ではヒロイン的な扱いながらも映像化の際に省略されがちだった典子の扱いを重視している点が特徴です。石坂浩二版シリーズの常連であった加藤武、小林昭二に加え、1977年版にも出演していた井川比佐志も出演しており、ファンには嬉しいキャスティングとなっています。

ストーリーの変更点

物語は原作に沿っていますが、ストーリー展開を簡素化するための変更点も多く見られます。以下に主な変更点をまとめました。

鍾乳洞の描写: 鍾乳洞内での探検や追跡劇は大幅にカットされ、財宝も発見されません。小梅は鍾乳洞内で誘拐されるのではなく、屍蝋の甲冑が落下して死亡します。
犯人の行動: 原作では美也子が村人を扇動する場面はありません。むしろ、田治見家に押し寄せた村人たちを説得して解散させています。
長持の位置: 鍾乳洞への抜け道となる長持は、辰弥の座敷の納戸ではなく庭の納屋にあります。辰弥を眠らせる設定もありません。
春代の最期: 春代が犯人の指を噛みちぎり辰弥に看取られて死ぬ点は原作通りですが、場所は鍾乳洞内ではなく納屋です。これは、小梅の遺骨を持って鍾乳洞へ行こうとした小竹が落下物で死亡し、その悲鳴を聞いて駆けつけた春代が犯人に殺害されるという流れになっています。
金田一の調査: 金田一は森家の当主ではなく、諏訪弁護士の依頼で調査を開始します。また、逗留先も民宿を兼ねる郵便局に変更されています。
亀井の正体: 亀井と辰弥の親子関係は、鶴子が戦地の亀井に宛てた手紙で妊娠を報告していたことから明らかになります。亀井は戦病死しており、英泉として現れることはありません。
僧侶の設定: 登場する僧侶は濃茶の尼と洪禅のみで、洪禅は殺害されません。梅幸尼や九野医師の殺人計画書も登場しません。
その他:
辰弥は神戸の石鹸工場勤務という設定に変更。
磯川警部ではなく等々力警部が登場し、金田一とは初対面。
美也子は草木染をしており、脅迫状に使われた染料が犯人特定の手がかりとなる。
慎太郎は陸軍ではなく海軍の士官。
典子は辰弥と恋仲にはならないものの、金田一を助けるなど重要な役割を果たす。
春代は心臓の病気のみで腎臓の病気の設定はなし。
丑松は辰弥の身元確認後、突然死亡。苦しむ様子はなし。
濃茶の尼は辰弥来村直後ではなく、田治見家で辰弥を罵倒。
久弥は一人で死亡し、お島が発見。
久弥の初七日法要に濃茶の尼が強請りに現れ、直後に殺害。慎太郎が現場を目撃。
久弥と濃茶の尼の殺害現場には八つ墓村の護符と鎌が残されていた。
辰弥は村を離れようとするが、金田一と美也子に鍾乳洞の屍蝋を見せる。
屏風には亀井と鶴子の写真のみが封じ込められている。
美也子は辰弥を殺害しようとするが、金田一が真相を見抜く。最後は服毒自殺。
事件後、慎太郎と典子は大阪へ。財産は全員が相続放棄。

キャスト

金田一耕助: 豊川悦司
森美也子: 浅野ゆう子
寺田辰弥: 高橋和也
里村慎太郎: 宅麻伸
田治見小竹 / 小梅: 岸田今日子
田治見要蔵 / 久弥 / 庄左衛門: 岸部一徳
田治見春代: 萬田久子
里村典子: 喜多嶋舞
等々力警部: 加藤武
濃茶の尼: 白石加代子

その他、多数の個性的な俳優が出演しています。

制作の背景

当時、ハリウッドでリメイクブームが起きていたことと、国内でミステリーブームが流行していたことを受けて、映画化が企画されました。当初は石坂浩二の再起用が検討されましたが、東宝側から新しい金田一像を創って欲しいという要望が出され、豊川悦司が起用されました。市川監督は、金田一役の豊川には自由に演技プランを任せる一方で、美也子役の浅野ゆう子には細かい演技指導を行ったそうです。また、松竹版との差別化を図るため、時代設定を昭和20年代に戻し、金田一の登場を早めるなどの変更が加えられました。

トリビア

主題歌「青空に問いかけて」は、小室等がテレビドラマ『俺たちの朝』の主題歌をセルフカバーしたものです。
岸田今日子演じる双子の老婆が赤い襟の肌襦袢を着ているのは、岸田自身のアイデアです。
美也子が草木染のアトリエを持っているという設定は、脚本に参加した大藪郁子のアイデアです。
オープニングの明朝体クレジットが末尾に移動したのは、監督が金田一の登場を早めるために編集した結果です。
映画『セブン』の演出が劇中に取り入れられています。

受賞

第39回ブルーリボン賞 助演女優賞（岸田今日子）
日本映画技術賞美術部門（櫻木晶）

外部リンク

八つ墓村 - 日本映画データベース
八つ墓村 - allcinema
八つ墓村 - KINENOTE
八つ墓村 - MOVIE WALKER PRESS
八つ墓村 - 映画.com
八つ墓村 - IMDb（英語）

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