八十里越

八十里越：険しき山道と歴史の軌跡

新潟県三条市から魚沼市を経て、福島県南会津郡只見町へと続く八十里越は、その名の通り険しい山道で知られる峠です。標高1070mの中ノ又山と標高1585mの浅草岳の中間にある鞍掛峠（標高965m）と木の根峠（標高845m）の二つの峠を越える必要があり、その難所ぶりから「八里（約31km）の道のりを十里にも感じるほど険しい」という由来が伝えられています。

明治期までの重要な交通路

明治時代後期までは、新潟県中越地方北部と福島県会津地方南部を結ぶ重要な街道として機能していました。新潟側からは塩、魚介類、鉄製品などの生活必需品が、南会津側からは繊維の原料や林産物が運ばれ、両地域の経済を支える役割を果たしていました。人々の往来も盛んで、地域社会を繋ぐ重要なルートだったのです。

鉄道開通と八十里越の衰退

しかし、1914年（大正3年）に岩越線（現在の磐越西線）が開通すると、状況は一変します。人々の移動や物資の輸送は鉄道へと移行し、八十里越の重要性は急速に低下しました。その後、全国的な道路網や鉄道網の整備が進んだことで、八十里越は次第に衰退していきました。新潟側の最奥部の宿場町であった下田村吉ヶ平集落は、1970年3月に集団離村する事態にまで至りました。

一方、八十里越と同様に新潟県中越地方と只見町を結ぶ街道である六十里越は、1970年代前半に国道252号とJR只見線が県境区間で開通・開業したことで、通行が容易になりました。しかし八十里越は、その整備は遅々として進まず、2015年現在でも国道289号などの国県道には、両県境を挟んで約20kmに渡り、自動車の通行が不可能な区間が残されています。

河井継之助と八十里越

八十里越は、幕末から戊辰戦争にかけて越後長岡藩の家老を務めた河井継之助と深い関わりがあります。北越戦争で敗れた後、負傷した継之助は、長岡城を脱出し、会津を目指して八十里越を越えました。この際、継之助は「八十里 こしぬけ武士の 越す峠」という句を詠んだと伝えられています。この句には、敗走する自身の心情と、険しい峠道を越える苦労が表れていると言えるでしょう。

継之助一行は、越後側の麓の吉ヶ平に着いた後、八十里越を越え、只見に着きました。この時開かれた道は「河井新道」と呼ばれ、現在もその名残が伝えられています。しかし、継之助の傷は悪化し、只見町塩沢で亡くなりました。塩沢にあった終焉の地は、只見川の電源開発により水没し、現在は河井継之助記念館に移築保存されています。

国道289号と改築事業

1970年（昭和45年）4月1日、八十里越を含む新潟県と福島県の区間が一般国道289号に指定されました。しかし、車両通行が不可能な区間（点線国道）であるため、現在、新潟県、福島県、国土交通省によって、三条市から只見町に至る20.8kmの区間の道路改築事業が進められています。この事業は、八十里越の通行不能区間を解消し、歴史的な街道を再び整備することを目指した重要な取り組みと言えるでしょう。

今後の八十里越

八十里越は、険しい自然と歴史が織りなす、日本の秘境と言えるでしょう。その歴史的・文化的価値に加え、地域経済活性化の観点からも、改築事業による整備が待たれています。将来的には、安全で快適な道路が整備され、多くの人がこの歴史ある街道を辿ることができるようになることが期待されます。また、河井継之助ゆかりの地の保存・活用も合わせて進められ、この地の歴史と文化が未来へと継承されていくことが望まれます。

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