八木浩

人物概要

八木浩（やぎひろし）は、1927年に生まれ、1986年 4月4日に亡くなった日本のドイツ文学者であり詩人です。大阪外国語大学で長年にわたり教壇に立ち、教授を務めました。専門はブレヒトを中心としたドイツの現代文学や演劇ですが、詩人としても作品を発表し、またドイツ文学の翻訳や日本への紹介にも尽力しました。教育・研究活動に加え、平和運動など多様な社会活動にも積極的に取り組みました。

経歴

八木浩は大阪府の出身です。旧制大阪明星高校を1946年に卒業した後、京都大学文学部にてドイツ文学を専攻し、1950年に卒業しました。大学卒業後、1952年には大阪外国語大学の講師として奉職を開始しました。その後、助教授を経て、1972年には教授に昇任し、同学で多くの後進の育成に貢献しました。大学内では、学生課長や付属図書館長といった要職も務め、教育・研究環境の整備にも尽力しました。

研究・文学活動

八木浩の研究活動の中心には、劇作家ベルトルト・ブレヒトを据えた現代ドイツ文学や演劇がありました。ブレヒトの叙事詩的演劇の理論や作品分析に深く取り組み、その成果は共編著や論文として発表されました。また、文学者としての視点から、ドイツ文学史や語学史に関する著作も手がけています。1987年に刊行された著書『詩と演劇―ブレヒトと現代ドイツ文学』は、彼の研究と思索の一端を示すものです。日本独文学会では理事を務め、阪神ドイツ文学会でも幹事として活動するなど、学会活動を通じてドイツ文学の研究振興に寄与しました。「クヴェレ会」というドイツ文学研究グループの会員としても、研究交流を深めました。

文学活動としては、詩人としても活動し、1975年には詩集『折にふれて』を、1983年には詩集『宇宙と地球』を高槻文庫から刊行しています。詩作を通じて、自身の内面世界や社会への眼差しを表現しました。

翻訳・紹介活動

八木浩は、ドイツ文学や関連分野の重要な著作を多数翻訳し、日本に紹介する役割も担いました。クルト・リースによる指揮者フルトヴェングラーの評伝、ハンス・カウフマンによるドイツ現代文学やハイネに関する研究書、ブレヒトの著作、『マルクス・エンゲルス文学論』など、その翻訳対象は多岐にわたります。これらの翻訳活動は、日本の読者がドイツの思想、文化、文学に触れる上で貴重な機会を提供しました。多くの翻訳は他の研究者との共訳であり、共同での作業を通じてドイツ文学の普及に貢献しました。

社会活動

大学での教育・研究活動の傍ら、八木浩は精力的に社会活動にも関わりました。演劇に強い関心を持ち、劇団「潮流」や劇団「どろ」といったグループと協同した活動を行いました。また、「ワイマル友の会」では会長を務め、ドイツ文化への理解促進に努めました。平和運動にも深く関与し、日本原水協の全国理事や大阪原水協の理事長、さらには大阪平和を守る会の理事を務めるなど、核兵器廃絶や平和構築に向けた活動に積極的に取り組みました。

主な著作、共編著、翻訳

『折にふれて詩集』 (1975年)
『宇宙と地球詩集』高槻文庫 (1983年)
"Lesestücke zur deutschen Literatur- und Sprachgeschichte" 芸林書房 (1979年)
『詩と演劇―ブレヒトと現代ドイツ文学』三修社 (1987年)
『R・シュトラウス (大音楽家・人と作品) 』安益泰共著、音楽之友社 (1964年)
『文学の基礎理論ドイツ文学の座標から』片山良展、三木正之共編著ミネルヴァ書房 (1974年)
『ハイネとその時代井上正蔵記念論文集』井上正蔵記念論文集刊行委員会編、朝日出版社 (1977年)
『ビューヒナーと現代吉田次郎先生退職記念論集』下程息共編、関西学院大学文学部独文科下程研究室 (1979年)
『ブレヒト叙事詩的演劇の発展』奥田賢、吉安光徳共編、クヴェレ会 (1980年)
『カフカと現代日本文学』有村隆広共編同学社 (1985年)
クルト・リース著『フルトヴェングラー音楽と政治』芦津丈夫共訳みすず書房 (1959年)
ハンス・カウフマン著『ドイツ現代文学批判』長橋芙美子、梶野啓他共訳ミネルヴァ書房 (1970年)
ハンス・カウフマン著『ハイネ詩と精神の展開』梶野啓共訳ミネルヴァ書房 (1973年)
『ブレヒト転機の書』講談社 (1975年)
マルクス・エンゲルス著『文学論』浦野春樹共訳郁文堂 (1975年)
『現代ドイツ短編集』道家忠道他共訳三修社 (1980年)
* ゲオルク・フォルスター著『ゲオルク・フォルスター作品集世界旅行からフランス革命へ』芳原政弘他共訳三修社 (1983年)

八木浩は、ドイツ文学の研究者、教育者としてだけでなく、詩人、翻訳者、そして社会活動家として、多角的な視点から文化と社会に貢献した人物と言えます。

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