八洲秀章

八洲 秀章（やしま ひであき、1915年（大正4年）6月2日 - 1985年（昭和60年）12月30日）は、日本の昭和期における重要な作曲家です。本名は鈴木義光といい、ミュージカル俳優の沢木順氏は次男にあたります。

北海道虻田郡真狩村の農家に生まれた八洲は、当初家業を継ぐものと考えられていました。しかし、17歳の時に馬車の事故に遭い、重傷を負います。この事故による脚の後遺症は深刻で、農業や兵役といった従来の進路を断念せざるを得なくなりました。失意の病床で、彼は偶然手にしたベートーヴェンの伝記を読み、その波乱に満ちた生涯と音楽への情熱に強く心を動かされます。これが、彼の人生を音楽の道へと方向転換させる決定的な契機となりました。

リハビリを経て回復した後、八洲はNHK札幌放送局の新人オーディションに声楽家として参加し、そこで注目を集めます。この経験が作曲家への道を志すきっかけとなり、彼は東京へ出ることを決意します。21歳で上京した八洲は、YMCAのオラトリオに参加するなどの活動の後、日本の音楽界の大家である山田耕筰に師事し、作曲の研鑽を積みました。

作曲家としての第一歩は、1937年（昭和12年）に訪れます。雑誌「詩と歌謡」に投稿した「漂泊の歌」が、同年ポリドールレコードより東海林太郎の歌唱でレコード化されたのです。しかし、その2年後には肺結核を患い、長期にわたる療養生活を余儀なくされます。病からの回復を経て、1940年（昭和15年）6月に伊藤久男が歌う「高原の旅愁」で活動を再開しました。

戦時中には、1943年（昭和18年）に日本映画学校に入学し、卒業後は「出陣」など数本の映画に出演するなど、俳優としても活動します。また、同校の音楽講師を務める傍ら、「八洲秀章とその楽団『黎明』」を結成し、戦後は自ら楽団を率いて演奏活動を展開しました。さらには、歌手「志摩光一」として歌声を披露したり、1951年（昭和26年）には映画「ドレミハ先生」で主演を務めるなど、その活動は多岐にわたりました。しかし、兄からの助言もあり、以降は音楽活動に専念することを決意します。

作曲家として彼の名を広く知らしめたのは、「さくら貝の歌」「あざみの歌」「毬藻の唄」といった、日本の自然や情感を歌い上げた抒情歌です。特に「あざみの歌」は、1949年（昭和24年）8月に八洲自身の歌唱でラジオ歌謡として放送されると、その後「のど自慢」などの番組を通じて全国に広まり、1951年（昭和26年）に伊藤久男の歌唱でレコード化されて国民的な愛唱歌となりました。「さくら貝の歌」も「日本の歌百選」に選ばれるなど、多くの人々に親しまれています。

また、作曲家としての広い視野を持ち、歌謡曲だけでなく、校歌や社歌、合唱曲、管弦楽曲など、幅広いジャンルの作品を手がけました。代表的な管弦楽曲としては、交響詩「開拓者」や組曲「春告魚(にしん)」などがあります。童謡においても、「やさしい和尚さん」で第1回日本レコード大賞童謡賞を受賞するなど、子供たちのための音楽創作にも力を注ぎました。

北海道岩見沢市を訪れた際、地元の中学生だった阿部純子（後の藤圭子）の才能を見出し、彼女が歌手になるきっかけを作ったエピソードも残されています。

日本音楽界の発展にも貢献し、日本音楽著作権協会の評議員や日本作曲家協会の理事といった要職を歴任しました。

八洲秀章は、1985年（昭和60年）12月30日に70歳でその生涯を終えました。病や怪我を乗り越え、多才な活動を経て作曲家として大成し、日本の歌謡史に多くの美しい旋律を残した人物です。

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