具島兼三郎

具島 兼三郎

具島 兼三郎（ぐしま かねさぶろう、1905年11月5日 - 2004年11月12日）は、20世紀から21世紀初頭にかけて活躍した日本の国際政治学者です。特に、ファシズムの分析や、アジア地域における国際関係の諸問題に関する研究で知られています。

経歴

1905年、福岡県に生を受けた具島兼三郎は、旧制高校を経て1928年に九州帝国大学法文学部を卒業しました。大学時代に培った学識を基に、初期の研究成果としては、1935年に唯物論全書の一冊として共著で発表した『ファシズム論』があり、同時代の社会情勢に対する深い洞察を示しています。

大学卒業後、彼は南満州鉄道（満鉄）に入社し、その調査部に籍を置きました。当時、戦局が緊迫する中、具島氏は独ソ戦に関する詳細な分析、特にドイツの石油供給能力を綿密に調査し、ナチスドイツが最終的に不利な戦局に陥るであろうとの予測を導き出しました。この冷静かつ客観的な分析は、当時の軍部の楽観的な見方とは相容れないものであったため批判の対象となり、やがて満鉄調査部事件へと連座し、逮捕されるという厳しい経験をすることになります。この出来事は、彼が権力や通説に安易に従わない、独立した研究者としての姿勢を示すものとなりました。

第二次世界大戦終結後、具島氏はアカデミックな世界に戻り、九州大学の教授に就任しました。教育者として後進の指導にあたるとともに、研究活動を精力的に再開しました。その後は長崎大学の学長、さらには長崎総合科学大学に設置された長崎平和文化研究所の所長を務めるなど、教育・研究機関の要職を歴任しました。これらの役職を通じて、平和研究の推進や、被爆地長崎から平和のメッセージを発信することにも貢献しました。

研究内容・業績

具島兼三郎の研究は多岐にわたりますが、特にファシズム論とアジア地域が抱える諸問題に関する研究は、彼の学術活動の大きな柱となりました。戦前からファシズムの構造とその危険性を分析し、戦後もその現代的な形態に警鐘を鳴らし続けました。また、戦中から戦後にかけて激動するアジアの国際情勢を鋭く分析し、日本の外交やアジア各国の変貌について数多くの論考を発表しました。

彼の業績は多数の著書として結実しています。主な著作には以下のようなものがあります。

• - 『ファシズム国家論』千倉書房、1933年
• - 『ファシズム論』 唯物論全書、1935年
• - 『世界政治と支那事変』白揚社、1940年
• - 『中日戦争と国際情勢』 実業之日本社、1948年
• - 『アジアの変貌』 時論社、1948年
• - 『ファッシズム独裁と労働統制―協調組合国家の研究』 大雅堂、1949年
• - 『ファシズム』 （岩波新書）、岩波書店、1949年
• - 『激変するアジア』 (岩波新書）、岩波書店、1953年
• - 『現代の植民地主義』 (岩波新書)、岩波書店、1958年
• - 『現代の国際政治』 、1965年
• - 『反安保の論理』 (三一新書)、三一書房、1969年
• - 『東アジアの国際政治―戦前・戦後の構造と展開(評論社の教養叢書〈24〉）』 評論社、1971年
• - 『近代日本外交小史―日本外交の足跡と展望(評論社の教養叢書〈31〉）』 評論社、1972年
• - 『現代のファシズム』 (青木新書)、青木書店、1972年
• - 『現代国際政治史―冷戦構造の発展と崩壊(評論社の教養叢書〈34〉）』 評論社、1974年
• - 『幕末外交史余話―エピソードが照らす史実の側面(評論社の教養叢書〈38〉）』 評論社、1974年
• - 『核廃絶か破滅か―被爆30年広島国際フォーラムの記録(市民の学術双書)』 時事通信社、1976年
• - 『どん底のたたかい―わたしの満鉄時代』 九州大学出版会、1980年
• - 『奔流―わたしの歩いた道』 九州大学出版会、1981年
• - 『文明への脱皮―明治初期日本の寸描』 九州大学出版会、1983年
• - 『全面核戦争と広島・長崎』 (岩波ブックレット)、岩波書店、1984年

これらの著作からは、時代が大きく揺れ動く中で、国際政治の構造を深く理解しようとする具島氏の一貫した姿勢と、平和への強い願いが読み取れます。特に満鉄時代の経験を綴った『どん底のたたかい』は、当時の社会情勢を知る上で貴重な資料となっています。

具島兼三郎は、その長きにわたる研究活動と教育者としての貢献を通じて、日本の国際政治学の発展に寄与しました。2004年、99歳でその生涯を終えました。彼の研究と思想は、今日の国際情勢を理解する上でもなお示唆に富んでいます。

もう一度検索