典属国

典属国（てんぞっこく）は、中国の秦朝と前漢の時代に設置された、特殊な官職の一つです。その主な役割は、中国王朝に降伏した周辺の異民族を統括・管理することにありました。異民族に対する窓口として、また彼らを懐柔し、統治下に置くための重要な機関としての機能を担っていました。

典属国には、九訳令（きゅうやくれい）という属官が置かれていました。九訳令は、異民族の言語や文化に精通し、彼らとの意思疎通を円滑にするための通訳や渉外を担当していたと考えられます。異民族との交渉や情報収集、文化的な橋渡し役として、重要な役割を果たしていたでしょう。

典属国の規模が拡大したのは、前漢の武帝の時代です。元狩3年（紀元前120年）に、匈奴の昆邪王（こんやおう）が漢に降伏したことがきっかけとなり、属国の数が増設されました。これに伴い、典属国には都尉（とい）、丞（じょう）、候（こう）、千人（せんにん）といった官職が新たに設けられ、組織体制が強化されました。これにより、降伏した異民族の管理体制がより強化され、漢王朝の支配領域が拡大することに貢献しました。

しかし、典属国は、前漢の成帝の時代に廃止されることになります。河平元年（紀元前28年）に、典属国は大鴻臚（だいこうろ）という別の官職に統合されました。大鴻臚は、主に外交や儀礼を担当する官職であり、典属国の機能も取り込むことで、より幅広い役割を担うことになりました。典属国の廃止は、異民族政策の変化や官僚機構の再編といった、当時の政治状況を反映したものと考えられます。

典属国は、短期間ではありましたが、中国王朝が異民族を支配・管理するための重要な機関として機能しました。その設立と廃止の背景には、当時の国際関係や政治状況が深く関わっており、中国史を理解する上で重要な要素の一つと言えるでしょう。

参考文献
『漢書』巻19上百官公卿表上

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