オイラト

オイラト：モンゴル高原の西に栄えた遊牧民たちの歴史

オイラト（Oirad）は、モンゴル高原西部から新疆北部にかけて居住するモンゴル系民族です。15世紀から18世紀にかけては、モンゴル高原を代表する強力な部族連合を形成し、その勢力はモンゴルのみならず、中央アジア、さらにはチベットにも及ぶほどでした。オイラトの歴史は、モンゴル帝国の興亡、清朝の台頭、そして現代に至るまで、複雑でダイナミックな展開を見せています。現在、オイラトはモンゴル、ロシア、中国などに居住しており、それぞれの地域で異なる名称と状況で生活しています。

モンゴル帝国時代：チンギス・カンとオイラトの関わり

オイラトのルーツは、12世紀のバイカル湖周辺にまで遡ります。元々はテュルク系であったとの説も存在しますが、モンゴル帝国の台頭とともに、オイラトはモンゴルの支配下に入りました。『元朝秘史』や『元史』といった史料には「斡亦剌」などの表記が見られ、ペルシア語史料では「Ūyrāt」と記されています。

オイラト部族長クドカ・ベキは、チンギス・カンに服属し、その功績によってチンギス・カン一族との姻戚関係を築きました。クドカ・ベキ家は、チンギス・カン家の主要な姻族として、帝国の中枢で重要な役割を果たしました。彼らの娘たちは、モンゴル帝国の諸王家に嫁ぎ、政治的な影響力を拡大していきました。クドカ・ベキの子孫は各地に散らばり、イルハン朝などでも活躍しました。しかし、モンゴル高原におけるオイラトの勢力は、13世紀以降はそれほど大きなものではありませんでした。

オイラト部族連合の形成とエセンの台頭

14世紀後半以降、モンゴル帝国が解体すると、オイラトはモンゴル高原西部で勢力を拡大しました。15世紀初頭にはマフムードが有力な部族となり、明との関係において重要な役割を果たします。明の永楽帝の侵攻をきっかけに、モンゴルの部族間の再編が進み、「四十モンゴル」と「四オイラト」という二大部族連合が形成されました。

15世紀半ばには、エセン・タイシがオイラトを統一し、その勢力は絶大なものとなります。エセンは明に侵攻し、正統帝を捕虜とする「土木の変」を引き起こしました。しかし、エセンはチンギス・カンの子孫ではなく、その地位はオイラト内部の反発を招き、1454年に暗殺されました。

オイラトの分裂とジュンガル帝国

エセンの死後、オイラトは分裂し、勢力を弱めました。その後もダヤン・ハーンらによって西方に追いやられながらも、独自の勢力を維持し続けました。17世紀には、ジュンガル部が台頭し、ガルダンがジュンガル帝国を築き上げました。ジュンガル帝国は、チベットを支配下に置いたり、清と対立したりするなど、勢力圏を拡大しました。しかし、最終的に清によって滅ぼされ、オイラトは清の支配下に置かれました。

清朝以降のオイラト：多様な展開

清朝はオイラトを「オーロト」と呼び、盟旗制度によって統治しました。オイラトはモンゴル高原西部、ジュンガリア、青海などに居住し、それぞれの地域で異なる状況下で生活しました。清朝崩壊後、オイラトはモンゴル、ロシア、中国のそれぞれの地域に組み込まれました。モンゴル国では西モンゴル人とされ、中国では蒙古族として扱われました。ロシアではカルムイク人として独自の共和国を形成しました。

現代のオイラト

現代のオイラトは、モンゴル、ロシア、中国などに居住し、それぞれの地域で異なる名称と状況で生活しています。彼らの人口は20万人から30万人と推定され、モンゴル文字やトド文字を使用するなど、独自の文化を維持しつつ、周辺民族との交流も続けています。オイラトの歴史は、遊牧民たちのダイナミックな生き様、そして複雑な政治状況を示すものであり、現代に至るまで多様な展開を見せる興味深い民族史です。

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