冬の夜ばなし

『冬の夜ばなし』：チーズと吹雪とショパンの調べ

1964年、チャック・ジョーンズ監督の手によって生み出されたトムとジェリー作品『冬の夜ばなし』(原題: Snowbody Loves Me、劇場公開時『零下30度』)は、冬の寒さとチーズ、そしてショパンの音楽が絶妙に絡み合う、心温まる短編アニメーションです。

物語は、猛吹雪の中、雪玉と化して転げ落ちてきたジェリーが、トムが店主を務めるチーズ店にたどり着くところから始まります。ショーウインドーに映る様々なチーズに目を奪われたジェリーは、トムを出し抜いて店内に侵入。極寒の中で凍えそうなトムを締め出し、店内のチーズを独り占めしようとします。

トムは怒り狂い、屋根から煙突を伝って店内に侵入しようとしますが、ジェリーが暖炉に火をつけたため、火炙りにあい、悲鳴を上げて外に放り出されてしまいます。一方、ジェリーは店内で最も大きなエメンタールチーズを前に大喜び。しかし、その様子を尻尾だけ出して見ていたトムは、無数の穴が開いたチーズにコルク栓を打ち込み、空気を送り込んでチーズを爆発させるという奇策に出ます。

チーズの破裂によって吹き飛ばされたジェリーは、咄嗟にワルツを踊り始め、トムの目を欺こうとしますが、結局は外に追い出されてしまいます。しかし、吹雪の音を聞き、外で凍えているジェリーを心配したトムは、彼を店に連れ戻し、温かいシュナップスで暖めます。息を吹き返したジェリーは、トムが弾くピアノに合わせて、レーダーホーゼンを身につけ、再び踊りだすのでした。

この作品には、チャック・ジョーンズ監督のユーモラスな演出と、ショパンの練習曲や『華麗なる大円舞曲』『幻想即興曲』といった名曲が巧みに織り込まれており、視覚的にも聴覚的にも豊かな体験を提供してくれます。

トムとジェリーのキャラクター描写も秀逸です。最初は自分の店を荒らされたことに怒り狂っていたトムですが、最後はジェリーを救い、仲直りする様子は、この作品に深みを与えています。ジェリーもまた、チーズへの愛情と、危機に瀕した際の機転の良さを見せます。

『冬の夜ばなし』は、単なるトムとジェリーの追いかけっこだけでなく、友情と優しさ、そして寒さの中にある温かさといった、普遍的なテーマが描かれた作品です。また、過去のトムとジェリー作品、『メリー・クリスマス』(1941年)、『ワルツの王様』(1953年)、『友達はいいな』(1961年)を彷彿とさせるシーンも散りばめられており、シリーズファンにとっても見どころ満載の作品と言えるでしょう。

1980年頃には日本テレビ系「木曜スペシャル・おかしなおかしな トムとジェリー 大行進」で放映され、DVDにも収録されています。ショパンの音楽と、トムとジェリーのユーモラスなやり取り、そして予想外の展開に満ちた『冬の夜ばなし』は、何度見ても楽しめる、まさに冬の夜にぴったりの作品です。

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