分国論

分国論とは

分国論（ぶんこくろん）は、1960年代に朝鮮民主主義人民共和国の歴史学者、金錫亨が提唱した学説です。彼の論文「三韓三国の日本列島内の分国について」において、朝鮮民族の強い意識を基盤とした視点から歴史が語られています。この論は、朝鮮民族中心の歴史観を強調し、具体的には日本の古代史を reinterpret する試みです。

背景

1960年代に入ると、朝鮮半島では民族主義が徐々に広がりを見せ、過去に無批判に受け入れられていた「任那日本府」を否定する反証が求められるようになりました。分国論はこのような時代の流れを受けて、三韓三国の分国が日本列島内に存在していると主張しました。これにより、日本書紀に登場する三韓三国は、朝鮮半島の本国を指しているのではなく、日本列島内のそれぞれの分国を指すものであると解釈されます。

この学説は特に、大和朝廷が朝鮮半島に与えた影響について否定する内容を持っています。具体的には、日本古代文化のルーツはすべて朝鮮に存在しているとの見解を示し、古代の日本は三韓（馬韓・弁韓・辰韓）あるいは三国（高句麗・百済・新羅）の支配下にあったとする歴史像を描いています。

批判と反響

分国論に対する批判は存在します。特に、論の中で日本書紀を批判しながらも、その中に登場する出雲神話や天孫降臨、神武東征などの物語を歴史的事実として受け入れている点は自己矛盾として指摘されています。さらに、分国論が正しいとするなら、他の歴史的資料、例えば中国や日本、さらには朝鮮の古典文献にもそれに関連する記述が見つかるはずであるという主張もあります。しかし、実際には全く見当たらないため、論の信憑性に疑問が投げかけられています。

分国論をそのまま支持する日本の学者はほとんどいなかったものの、任那日本府に関する再評価が始まるきっかけとなり、学界において定説への反論の視点を提供したことは事実です。近年でもこのテーマに関連した研究は続いていますが、その根拠となる資料は乏しく、日韓両国の学会からは十分に説得力のある学説とは見なされていません。

結論

分国論は、朝鮮の歴史学者によって展開された独自の歴史観であり、民族的なアイデンティティを強調するための重要な学説といえます。しかし、その理論が広く受け入れられるには、多くの歴史的証拠が不足しているため、学界での評価は限定的です。今後もこの分野における研究は続くと期待されますが、そのためにはより頑健な証拠を基にした議論が求められるでしょう。

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