刑天

刑天（けいてん）

刑天は、中国神話に登場する伝説的な巨人です。彼の名は、「形天」や「邢天」などとも表記されており、また「天」字を「夭」とする形式の「刑夭」「形夭」「邢夭」といったバリエーションも存在しますが、これらは同じく彼を指します。

概要

『山海経』によると、刑天は帝（恐らく黄帝）との戦いで敗北し、常羊山にその首を埋められました。その後も彼は、両乳を目に、臍を口に変え、盾と斧を手に持って舞い続けるという不屈の精神を示しました。この神話は、彼が単なる戦士でなく、精神的な象徴でもあることを示しています。後漢の高誘は『淮南子』の注釈で、天神が手を断たれた後に天帝が首を断ったと記録していますが、それは疑問視されています。

常羊山は神農（炎帝）の出身地ともいわれ、彼の命により「扶犂の楽」という曲や「豊年の詠」という詩が作られたとも言われます。このことから、刑天は神農に仕えるものとみなされてきました。しかしながら、常羊山の北方には黄帝の末裔が住む軒轅の国もあり、刑天の闘争は炎帝と黄帝の対立から派生したとの考えがあります。

南朝宋の詩人陶淵明は、「刑天干戚を舞わし、猛志固（もと）より常に在り」という詩を詠み、刑天の不屈の精神を賞賛しました。後世には、敗北後も屈しないその姿が象徴的な存在として語り継がれています。先秦の時代を描いた『楚辞』には、刑天の精神に通じる詩が存在し、また夏殷の革命時に誅せられた耕（こう）が首なしの状態で立ち続ける話も伝えられています。

刑天の舞

刑天が舞ったとされる干戚（盾と斧を持っての舞）は、『山海経』の中山経に見られる「干儛」に類似しています。干儛は武器を用いた祓除の祭りとして定義されていますが、刑天の舞は、戦意を高めるために捧げられた武舞であるとされています。また、先秦時代には「伐礼」という儀式が存在し、征服した動物の血を祭器に注ぎ込むというものもあり、これらの物語は古代中原の漢民族が西域異民族を征服した際の影があるとも考えられています。敗戦後も被征服者の祭りが征服者に献上される状況や、祝勝の儀式で予祝が演じられるという伝統があったことも影響を与えた可能性があります。

表記について

刑天の「刑」は「形」や「邢」とも表記され、「天」は「夭」とも書かれます。甲骨文や金文では「天」は人体の頭部に焦点が当たった形を持ち、元々の意味は「（人体の）頂」ということを示します。このため、刑天という名は首を失った像を表すのに非常に適しています。また、『淮南子』には「形残の尸」という文があり、この「形残」は古くは音の近さから「形天」と解釈されています。死体が神格化された話や、生ける屍のような存在という解釈もなされており、清の段玉裁は祭祀における神像としての側面を指摘しています。

脚注

刑天の物語は中国神話の中でも重要な位置を占めており、彼の存在は今もなお多くの人々に語り継がれています。

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