楚辞

楚辞（そじ）

『楚辞』は、中国の戦国時代の楚の地方で謡われた「辞」と呼ばれる韻文、およびそれらを集成した詩集の名称です。全17巻から構成され、屈原の『離騒』が最も有名な作品として知られています。

概要

『楚辞』は、中国北方を代表する古典である『詩経』に対し、南方の文化を代表する文学作品であり、後代の漢詩へと繋がる源流の一つとされています。また、漢代に隆盛を誇った「賦」の淵源とも見なされ、「辞賦」という言葉で一括りにされることもあります。

『楚辞』の大きな特徴は、『詩経』と比較して、南方の風土を背景とした抒情詩である点です。その性格を代表するものとして、哀愁を帯びた雰囲気、世の中を憤るような強い感情、そしてロマン主義的な傾向が挙げられます。

成立

書物としての『楚辞』が成立したのは、前漢末期の劉向による編集が最初ですが、残念ながらこれは散逸してしまいました。現存する最古の『楚辞』は、後漢の王逸が自身の詩を加えて編纂した『楚辞章句』です。

『楚辞』の出現時期は、『詩経』の最後の詩が成立した時期から約200年後であり、その内容は水、光、草、花といった自然描写から、人情や風俗、特に信仰の形に至るまで、南方的要素が色濃く反映されています。『詩経』の伝統を受け継ぎながらも、数々の天才的な詩人たちによって、これらの要素が個性的に結合され、内容と形式の両面において独自の体系が完成しました。内容面では豊かな空想性、形式面では一句六言という活発なリズムが特徴です。また、詩に作者名が記録されるようになったのは、屈原の登場以降のことです。

各巻の構成

『楚辞』は以下の17巻で構成されています。

1. 離騒 - 伝・屈原作
2. 九歌 - 伝・屈原作
3. 天問 - 伝・宋玉ら戦国楚の詩人作
4. 九章 (詩集) - 伝・屈原作
5. 遠遊 - 伝・屈原作
6. 卜居 - 伝・宋玉ら戦国楚の詩人作
7. 漁父 - 伝・宋玉ら戦国楚の詩人作
8. 九辯 - 伝・宋玉ら戦国楚の詩人作
9. 招魂 - 伝・屈原作
10. 大招 - 伝・景差ら戦国楚の詩人作
11. 惜誓 - 伝・賈誼作
12. 招隠士 - 伝・淮南小山作
13. 七諌 - 伝・東方朔作
14. 哀時命 - 伝・荘忌作
15. 九懐 - 伝・王褒作
16. 九歎 - 伝・劉向作
17. 九思 - 伝・王逸作

注釈本としては、最古のものが『楚辞章句』ですが、北宋時代の洪興祖による『楚辞補註』が、『楚辞』を読み解く上での基本とされています。その他、朱熹による『楚辞集註』も重要な注釈書です。

韻文の様式としての「辞」は、六言または七言で謡われ、元々は民謡であり、その源流は巫の歌にあると言われています。中国北方の文学と比較して感情表現が豊かであり、音律を整えるための「兮」の字が含まれることが特徴です（ただし、語自体に意味はありません）。

各巻の概要

巻01: 離騒 - 概説、内容、あらすじの詳細は離騒を参照。
巻02: 九歌
巻03: 天問
巻04: 九章 (詩集)
巻05: 遠遊
巻06: 卜居
巻07: 漁父
巻08: 九辯
巻09: 招魂
巻10: 大招
巻11: 惜誓
巻12: 招隠士
巻13: 七諌
巻14: 哀時命
巻15: 九懐
巻16: 九歎
巻17: 九思

主な訳書

小南一郎訳注『楚辞』岩波文庫、2021年
星川清孝訳著『楚辞　新釈漢文大系34』明治書院、1970年
抜粋版『楚辞　新書漢文大系24』明治書院、2004年。鈴木かおり編
藤野岩友訳著『楚辞　漢詩選3』集英社、新版1996年

参考文献

佐藤一郎『中国文学史』（初版）慶応通信、1971年4月。ISBN 9784766401943。

外部リンク

* 《楚辞》原文

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