初野駅

初野駅：歴史と閉塞の物語

北海道北部の静かな田園地帯に位置していた初野駅は、北海道旅客鉄道（JR北海道）宗谷本線に属する駅でした。1948年6月、地元住民の熱意によって仮乗降場として開業、その後1959年には正式な駅に昇格しました。しかし、時代の流れとともに利用者は減少し続け、2024年3月、長い歴史に幕を閉じました。

開業までの道のり：住民の強い思い

初野駅の誕生は、地元住民の粘り強い陳情から始まります。1947年、斑渓、吉野、富岡、西里の4地区住民は、日々の生活における利便性向上を願って、美深駅と紋穂内駅間に新たな駅を設置するよう、運輸省と国鉄に強く訴えました。同年9月には「初野乗降場設置促進期成会」が発足、建設資材や労力、さらには待合所の建築まで、地域住民自らが負担することで、1948年6月、念願の仮乗降場が開業しました。この出来事は、地域住民の強い鉄道へのニーズと、その実現に向けた一体感を物語っています。

存続と廃止の狭間：利用者減少と自治体の対応

開業から70年近く、初野駅は地域住民の生活に寄り添い続けました。2019年、JR北海道が宗谷本線沿線の自治体に、1日平均乗降人員が3名以下の駅の廃止または維持費用負担を求めた際、初野駅は辛うじて存続の道を歩みました。しかし、2020年以降、乗降人員が3名以下に減少。2021年6月、JR北海道から美深町に廃止の打診が行われました。その後、地元自治会による協議が行われ、2024年3月、ついに廃止が決定しました。廃止決定の背景には、長年にわたる利用者減少という、避けられない現実があったのです。

駅の構造と周辺環境

初野駅は、地上駅で、稚内方面に向かって左側に木造板張りの簡易的な単式ホーム1面1線を有していました。稚内側に踏切があり、その傍らには、美深町が所有するプレハブの待合所が設置されていました。無人駅であり、簡素ながらも、多くの利用客を見送ってきた歴史を感じさせる佇まいでした。駅周辺は、富岡、吉野、斑渓の3地区の境界に位置し、静かな田園地帯が広がっています。約300m西側には国道40号が走り、名士バスの停留所も近接していました。

駅名の由来：定かではない起源

駅名の由来は、現在も明確には解明されていません。国鉄北海道総局が発行した『北海道駅名の起源』には、「部落名をそのまま駅名としたが、その由来については定かではない」と記されています。駅が位置する集落名は「富岡」ですが、「初野乗降場設置促進期成会」の結成や、仮乗降場開設当初からの名称から、地域住民にとって「初野」という地名が特別な意味を持っていたと考えられます。

年表：歴史を刻む軌跡

1948年6月：運輸省の初野仮乗降場として設置
1949年6月1日：日本国有鉄道に移管
1959年11月1日：駅に昇格
1987年4月1日：JR北海道の駅となる
1996年7月15日：プレハブ待合所設置
2021年6月：JR北海道から美深町に廃止打診
2024年3月16日：利用者減少により廃止
2024年10月28日予定：美深町所有の待合室公売

終わりに：消えゆく駅舎と残された記憶

初野駅の廃止は、地方の過疎化という現代社会の課題を改めて浮き彫りにしました。しかし、その存在は、地域住民の強い思いと、鉄道が地域社会に果たしてきた役割を物語る貴重な歴史です。廃止された駅舎は、記憶の中に、そして、地域の歴史の中に刻まれ続けるでしょう。

もう一度検索