前田昌利

概要

前田昌利は、日本のチェリスト、作曲家、編曲家、教育者、そしてオーケストラ代表として多岐にわたり活躍する音楽家である。東京都出身。SAKUYAグランド・オーケストラの代表を務める傍ら、常葉大学短期大学部音楽科で特任教授および科長として後進の指導にあたっている。

経歴

幼少期にヴァイオリンを始めた後、桐朋学園に進みチェロへ転向。チェロを鈴木聡氏に師事し、室内楽やオーケストラを斉藤秀雄氏から学んだ。在学中から東京交響楽団で演奏活動を開始し、卒業後はクラシックの枠を超え、松任谷由実、伊勢正三、長谷川きよしといった多様なジャンルのアーティストと共演し、スタジオミュージシャンとしても名を馳せた。

1992年からは4年間にわたり東京ニューフィルハーモニック管弦楽団の客員首席チェロ奏者を務める。この時期、オーケストラでの活動に加え、室内楽やソロ演奏にも注力。メトロポリタン・チェロ・アンサンブルやバルトーク弦楽四重奏団とも共演の機会を持った。1987年から20年間は、静岡交響楽団（現在の富士山静岡交響楽団）で首席チェロ奏者として楽団を支えた。

2003年にはピアニストの大楽勝美氏とDAIRAK SUPER TRIOを結成。チェロ演奏だけでなく、作曲や編曲も担当し、北海道を中心に精力的な演奏活動を行った。また、長年連れ添ったピアニストの妻、恭子氏とのデュオ活動も頻繁に行い、チェロ小品演奏家としての自身の音楽的目標を追求した。ピエール・フルニエの演奏に感銘を受けた経験から、高度なテクニックに頼るのではなく、聴衆の心に響く演奏を理想とした。

教育者としては、長年にわたりチェロの指導にも力を入れ、多くの門下生を育てた。2011年に静岡交響楽団を退団後は、常葉大学短期大学部音楽科の特任教授、後に科長として、地域における音楽教育の振興と若手音楽家の育成に尽力した。

地域貢献活動

常葉大学での活動を通じて、静岡県における若手音楽家の活動の場が限られている現状に危機感を抱いた前田氏は、県内の音楽家が活躍できる環境を創出する必要性を痛感する。その理念のもと、2014年には自身が発起人となり、クラシック以外の多様なジャンルを取り入れた新たなオーケストラ、SAKUYAグランド・オーケストラを設立した。楽団名は富士山の女神、コノハナサクヤ姫に由来する。

この楽団設立の背景には、スタジオミュージシャン時代の異ジャンル音楽家との交流で培われた、音楽にジャンルの垣根はないという独自の音楽観がある。また、脳科学者・茂木健一郎氏の講演から学んだ生演奏が高齢者の脳に与える影響に着目し、日本の高齢社会において高齢者が音楽を通じて活力を得られる場を提供することを楽団の重要な目的の一つとした。オーディションで選ばれた常葉大学短期大学部音楽科の卒業生を中心に編成された楽団は、静岡県内各地で演奏活動を行い、身体障害者施設や高齢者施設への訪問演奏も積極的に行った。

新型コロナウイルス感染症の流行により活動の一時停止を余儀なくされた時期もあったが、YouTubeを活用するなどして音楽を発信し続けた。2022年には文化庁の支援を受けて活動を再開。その後も県内各地でコンサートを開催し、「音楽の贈り物をする会」を立ち上げるなど、高齢者への音楽を通じた支援の輪を広げる活動を続けている。

作曲・作品

DAIRAK SUPER TRIOでの活動やSAKUYAグランド・オーケストラの楽曲制作を通じて、作曲・編曲も手がけている。知床訪問の感動から生まれた歌曲「永遠の知床」や、北海道を題材にしたピアノ三重奏曲「女満別の四季」などを制作し、CDもリリースしている。また、自身の設立したオーケストラのために、高齢者を励ます楽曲「歩いてみませんか」を作曲するなど、活動理念に基づいた創作も行っている。

主な参加作品には、CHAGE and ASKAの「風舞」、松任谷由実の「紅雀」「SEASONS COLOURS -秋冬撰曲集-」、長谷川きよしの「街角」などがある。

主な自主制作CD

女満別の四季 (DAIRAK SUPER TRIO)
美・バロック (前田昌利 & 恭子 Duo)
* 無言歌 (チェロソロ)

前田昌利氏の活動は、クラシック音楽の伝統に基づきつつ、多様なジャンルとの交流を通じて培われた幅広い音楽性を持ち、教育者、そして地域社会に貢献する音楽家として、現在も精力的に続けられている。

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