前田透

前田透について

生い立ちと経歴

前田透（まえだ とおる）は、大正3年（1914年）9月16日に東京府豊多摩郡大久保町（現在の新宿区）に生まれ、歌人の前田夕暮の子として育ちました。昭和10年（1935年）には、旧制成蹊高等学校の文科乙類を卒業し、その後、昭和13年（1938年）に東京帝国大学経済学部を卒業しました。その後、扶桑海上（現・三井住友海上）に入社しました。

昭和14年1月には台湾歩兵第2連隊補充隊に入隊し、同年9月には経理部幹部候補生として東京陸軍経理学校に入学します。昭和15年（1940年）9月に同校を卒業し、その後は中国、フィリピン、ジャワ、ポルトガル領チモール島に派遣され、特にチモール島では現地の独立運動に協力しました。この経験が後に彼の詩作に大きな影響を与えました。

文学活動と業績

昭和21年（1946年）に帰国後、前田は特に戦争中の体験を反映した作品を書き始めます。彼の短歌は、戦争文学としては異例の南国情緒に満ちた作風となり、1953年に出版された歌集『漂流の季節』に収められました。この作品は、彼が東チモールでの経験を回想したもので、後に多くの読者に支持されました。

その後の1974年には成蹊大学文学部の教授に就任し、意欲的に後進の指導にあたりました。彼の業績は、昭和44年（1969年）の『煙樹』で第15回日本歌人クラブ推薦歌集を受賞し、さらに昭和56年（1981年）には『冬すでに過ぐ』で第15回迢空賞を受賞するなど、数々の評価を得ました。

死去と影響

前田透は、昭和59年（1984年）1月11日に交通事故に遭い、1月13日に死去しました。享年69歳。彼の死後、父・前田夕暮が創始した白日社の「詩歌」は解散し、彼の弟子たちはそれぞれの結社や同人誌を立ち上げました。井辻朱美や林あまりの「かばん」、角宮悦子の「はな」などが、彼の影響を受けた後輩たちの代表的な活動となっています。

主要作品

前田透の著作には、次のようなものがあります：

• - 第一歌集『漂流の季節』1953年（白玉書房）
• - 第二歌集『断章』1957年（ユリイカ）
• - 第三歌集『煙樹』1968年（新星書房）
• - 第四歌集『銅の天』1975年（角川書店）
• - 第五歌集『冬すでに過ぐ』1980年（角川書店）
• - 論文集『律と創造』1970年（短歌新聞社）
• - 『チモール記』1982年（蒼土舎）
• - 『前田透全歌集』1984年（短歌新聞社）
• - 共著詩集『若き陸地』2004年（東京四季出版）

前田透の文学は、戦後日本の文化において重要な位置を占めており、彼の作品は今も多くの人々に読み継がれています。

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