前車

前車（ぜんしゃ、limber）

概要

前車は、大砲の架尾や砲弾を載せる砲弾車、さらには鍛冶車を支えるための2輪の荷車です。この荷車は、牽引作業を容易にするために設計されており、特に19世紀以前からその役割が重視されてきました。

19世紀以前の前車

19世紀以前においては、大砲の発展とともに前車の必要性が高まりました。当時の大砲は車輪と砲脚を備えた砲架に設置されており、その移動を効率よく行うために前車が考案されたのです。この前車はシンプルな2輪の荷車で、軸棒が縦向きに取り付けられていました。大砲の架尾には、前車との接続のための軸棒に合う穴が開けられ、牽引時には架尾を持ち上げて前車の軸棒に差し込む仕組みになっていました。この時期の前車は、弾薬を運ぶことを目的としてはいなかったため、弾薬は砲脚の隙間に弾薬箱を置いて運ぶことが一般的でした。

19世紀の進化

19世紀に入ると、前車はイギリスやフランスで改良され、アメリカでも導入されました。この新しい前車の特徴は、馬を並列に繋ぐことができ、弾薬箱を搭載することができるようになった点です。典型的な野砲用の前車は、大砲の車輪と同じ径の2輪カートで、構造は丈夫で機能的でした。牽引時は、御者が馬を操り、連結は軸棒の固定ピンで確実に保持されました。また、弾薬箱は必要に応じて積み下ろしができ、収納可能な弾数は砲の口径によって異なりました。

ほとんどの野砲は、通常6頭の馬で牽引され、馬の配置は前馬、中馬、後馬として分類されました。弾薬箱は、例えば12ポンドナポレオン砲の場合、28発を収納可能でした。戦闘時には、大砲の近くで弾薬の供給を迅速に行えるように工夫がされており、砲撃が行われる前後での運用も考慮に入れられていました。

20世紀への移行

20世紀に入ると、馬による牽引が少なくなり、前車やケーソンの利用も減少しました。この時代にはトラックやトラクターが進化し、大砲の牽引を担う新しい方法が確立されました。しかし、一部の軍では惰性から前車が残り続け、重砲の牽引に用いられるケースも見られました。特にM115 203mm榴弾砲のような重砲では、移動時のバランスを維持するために前車が利用されることがありました。

残る伝統

実用性は低下したものの、20世紀以降、イギリスやアメリカでは伝統的に霊柩馬車として前車が使用されることもありました。馬によって柩を運ぶこの伝統は、前車の歴史を物語っており、古き良き文化の一部として現代にも残っています。

まとめ

前車の歴史は、技術の進化とともに変化し続けてきました。大砲に対する牽引補助として重要な役目を果たし、その使用方法の変化が戦争の戦術や技術に与えた影響は計り知れません。前車は、単なる移動のための道具を超え、時代を反映した技術と文化の象徴とも言えるでしょう。

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