劉瑾

劉瑾：明朝を揺るがした専横の宦官

劉瑾（りゅう きん）は、明代の正徳帝の時代に権勢をふるった宦官です。彼は皇帝に取り入り、同僚の宦官たちと結託して政治を壟断し、その専横な振る舞いは明朝の歴史に大きな爪痕を残しました。

生い立ちと出世

劉瑾は、景泰2年（1451年）に西安府興平県で生まれました。出自は不明確で、無頼の徒であったとも伝えられています。当初は「談」という姓を名乗っていましたが、自ら宮刑を受けて宦官となり、劉姓の宦官に仕えた後、その姓を譲り受けました。劉瑾は、若くして即位した正徳帝に取り入り、帝に快楽を勧め、政治を顧みないように仕向けました。そして、自らが政治の実権を掌握していったのです。

「八虎」と国政の腐敗

劉瑾は、同僚の宦官7人と共に「八虎」と称され、国政を壟断しました。彼らは、汚職や収賄を繰り返して私腹を肥やし、国政を腐敗させました。また、東廠や西廠といった諜報機関を駆使して、反対勢力を徹底的に監視・弾圧しました。その専横ぶりは、人々の不満を高め、正徳5年（1510年）に寧夏で発生した安化王の乱も、劉瑾の排除をその理由の一つとしています。

帝位簒奪の企てと処刑

劉瑾は、皇帝の寵愛を失い、粛清されることを恐れ、ついに帝位の簒奪を企てます。しかし、同じく八虎の一人であった張永の密告により、その野望は打ち砕かれました。劉瑾は、「聖上を欺き、国政を壟断した」罪で逮捕され、凌遅刑（寸磔）という極刑に処されることになります。

凌遅刑の壮絶な記録

劉瑾の処刑の様子は、刑務官であった張文麟によって詳細に記録されています。それによると、劉瑾は絶命するまでに二日間かけて、合計3,357回も切り刻まれたといいます。一日目には3,000回近く切り刻まれたにも関わらず、夕食に出された粥をおかわりしたという記録があり、その大胆な態度に刑務官も驚いたと伝えられています。二日目に357回切り刻まれた時点で、ついに絶命しました。処刑後、その肉片は劉瑾によって殺された人々の遺族に配られ、位牌に供えられたり、憎悪のあまり食べられたりしたとされています。

莫大な財産

劉瑾が没収された財産は、金250万両、銀5,000万両、その他にも数えきれないほどの珍品が含まれており、当時の政府歳入の10年分に相当する莫大なものであったと『二十二史箚記』に記録されています。

劉瑾を題材とした作品

劉瑾の波乱に満ちた生涯は、小説の題材にもなっています。

* 田中芳樹著『黒竜潭異聞〜中国歴史奇譚集〜』（実業之日本社）


劉瑾は、その強大な権力と凄惨な最期によって、明朝史に名を刻んだ人物です。

もう一度検索