加藤素毛

加藤素毛：幕末の俳人、遣米使節が見た世界

加藤素毛（かとう そもう）は、文政8年（1825年）に生まれ、明治12年（1879年）に没した、江戸時代後期から明治時代初期にかけての俳人です。本名を雅英といい、幼名を藤平、後に十郎と改めました。素毛の他にも、周海、米行子、霊之庵、君林舎といった号を用いています。彼は、幕末の激動期に遣米使節の一員としてアメリカに渡り、その体験を日記や俳句などに残しました。

生い立ちと学問

素毛は、飛騨国益田郡下原郷下原村（現在の岐阜県下呂市）で、名主である加藤三郎右衛門の次男として生まれました。高山で飛騨郡代の公用人となり、小野高福から漢学、山崎弘泰から国学、山崎弓雄から和歌を学びました。また、小野高福の子である山岡鉄舟とも親交を深めました。

吟行の旅と江戸での活動

嘉永5年（1852年）に公用人を辞めた素毛は、関西、九州への吟行の旅に出ます。長崎には3ヶ月ほど滞在し、異国の文化に触れました。この時、春徳寺の鉄翁祖門から南画を学んでいます。安政元年（1854年）に下原郷に戻り、この旅の記録を「関西日記」としてまとめました。安政6年（1859年）には江戸へ移り、幕府御用達の伊勢屋の手代として働きます。この頃、山岡鉄舟との親交をさらに深めています。

遣米使節としての渡米

安政7年（1860年）、素毛は遣米使節の一員としてアメリカへ渡航します。彼は、道中の生活や現地の風俗などを詳細に記録し、多くの俳句を詠みました。これらの記録は、「周海日記」「亜行航海日記」として残されており、当時のアメリカの様子を知る貴重な資料となっています。帰国後、素毛は各地でこの体験を語り、尾張藩では重臣の大道寺玄蕃や医師の伊藤圭介に話しました。この時、大道寺玄蕃の家臣である水野正信によって「亜行航海日記」が写され、「二夜語」として伝えられています。

明治時代と晩年

明治時代に入ると、素毛は長崎や京都などへ吟遊の旅に出かけました。明治12年（1879年）5月12日に亡くなりました。

主な著作

亜行航海日記（万延元年）
伊勢廻吟詠集（明治2年）
月之笠（明治7年）
倭歌の風（明治9年）
* 接眉録（明治9年）

素毛が持ち帰ったものと遺品

素毛は、アメリカから国旗、新聞、トランプ、ジェームズ・ブキャナン大統領の肖像、ストーブ、バケツ、地球儀などを持ち帰りました。これらの遺品は、「加藤素毛の遺品」として岐阜県有形民俗文化財に指定されています。また、生家の跡地には加藤素毛記念館（霊芝庵）が建てられ、航海日記やスケッチが収蔵されています。下呂ふるさと歴史記念館にも資料が展示されています。

現在の取り組み

下呂市では、2018年度から加藤素毛を伝承する事業を行っており、彼の功績を後世に伝えています。加藤素毛は、俳人としてだけでなく、異文化交流の先駆者としても、その名が語り継がれるべき人物と言えるでしょう。

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