飛騨郡代

飛騨郡代の役割と歴史

飛騨郡代は、江戸時代に飛騨国全域と美濃、越前、加賀の一部地域を治めた幕府の行政官でした。飛騨高山藩が改易された元禄5年（1692年）に設置され、当初は代官でしたが、安永6年（1777年）に郡代に昇格しました。

飛騨国が幕府領となった背景には、豊かな木材や金銀銅などの鉱物資源を幕府が直接掌握し、財政を安定させる狙いがありました。高山城は廃城となり、代わって高山陣屋が行政の中心となりました。郡代の管轄地域は広く、美濃国（郡上郡、加茂郡、恵那郡）と越前国・加賀国の一部も含まれていました。効率的な行政運営のため、下川辺出張陣屋（岐阜県加茂郡）と本保出張陣屋（福井県越前市）が支所として設置されました。

郡代は、多くの職員を配下に置いていました。江戸と高山に詰めた手付や手代、木材管理を担当した材木改役、運上改役、山廻役など、多様な専門職が組織的に働いていました。

高山陣屋と郡代の人事

高山陣屋は、飛騨郡代の執務場所であり、江戸時代の建物が現存する貴重な天領陣屋です。明治維新までに14代の郡代が任命され、それ以前の代官を含めると、合計25人が飛騨郡代を務めました。郡代は、西国郡代に次ぐ地位にあり、勘定奉行の支配下にありました。

歴代郡代の主な活動

歴代の郡代は、それぞれの時代に課題解決に取り組みました。伊奈忠篤は検地を行い年貢を減免、伊奈忠順は山見役を設置しました。伊奈忠逵は鉱山や古城の調査を行い、森山実道以降は専任の郡代となりました。亀田三脩や長谷川忠国は植林や古城調査を行い、長谷川忠崇は地誌『飛州志』を編纂しました。幸田高成は馬鈴薯を導入し、上倉信門は温泉役を設置しました。

大原紹正は木材伐採を制限、安永検地で増石高を計上しましたが、年貢の大幅な引き上げによって大原騒動を引き起こしました。大原正純は天明の大飢饉や高山大火による財政難の中で、横領や着服を行い、騒動を起こしました。飯塚政長は植林や米売株の廃止を行い、民心掌握に努めました。田口喜古は桜の植樹を行い、榊原長義の時代には神岡船津で大火が発生しました。

大井永昌は、大火や天保の飢饉で被災した民衆を救済しました。豊田友直は郷倉を設置し、渋草焼を創始しました。小野高福は山岡鉄舟の父であり、増田頼興は飛越地震の復興に当たりました。新見正功は幕府崩壊後、俸禄米を高山の町々に与えました。

飛騨郡代の組織と影響

飛騨郡代は、幕府の直接支配を反映した組織であり、飛騨地域の経済や社会に大きな影響を与えました。木材資源の管理、鉱山開発、年貢徴収、災害への対応など、多岐にわたる行政業務を担い、地域の安定と発展に貢献しました。しかし、郡代の政策によっては、大原騒動のように民衆の反発を招くケースもありました。

飛騨郡代の制度は、幕府の地方支配のあり方を示す重要な事例であり、その歴史と活動は、江戸時代の政治・経済・社会を理解する上で欠かせないものです。高山陣屋は、飛騨郡代の活動を知る上で重要な史跡であり、当時の様子を偲ぶことができます。

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