労働拒否権

労働拒否から反労働思想まで：歴史的・思想的考察

本稿では、労働拒否、賃金奴隷制、反労働思想といった概念を多角的に考察します。歴史的背景、関連する思想、現代社会における関連事例などを含め、労働に対する様々な視点を探ります。

労働拒否：様々な社会的文脈における実践

労働拒否とは、正規の労働に従事することを拒否する行為です。その背景は政治的、哲学的なものから個人的なものまで様々であり、歴史を通して様々な社会的グループや個人によって実践されてきました。急進的な政治思想、例えばマルクス主義（ポール・ラファルグ、イタリアのワーケリスト、ネグリ、マリオ・トロンティ、フランス極左グループEchangesやMouvementなど）、アナーキズム（ボブ・ブラック、ポストレフト・アナーキーなど）では、労働拒否が積極的に提唱されてきました。

強制労働の禁止と国際人権法

国際人権法は、ストライキの権利を除いて、労働拒否を明確に定義していません。しかし、1957年の国際労働機関における強制労働廃止条約は、あらゆる形態の強制労働を禁止しています。これは、労働拒否と強制労働という対照的な概念を理解する上で重要な枠組みとなります。

賃金奴隷制：経済的搾取と社会階層

賃金奴隷制という概念は、人々の生計が賃金に全面的に依存し、その依存が切迫している状態を指します。この用語は、賃労働と奴隷制の類似性を強調し、所有と雇用の類似性も包含する概念として用いられてきました。特に、資本と労働間の交渉力の不均衡（労働者の賃金が低い場合など）、労働者の自主管理権の欠如といった経済的搾取と社会階層の批判において用いられています。
古代ローマのキケロですら、賃金労働と奴隷制の類似性に言及しており、アメリカ南北戦争以前の南部奴隷制擁護派も、この概念を北部の労働者と奴隷の状態を比較するために利用しました。産業革命期には、プルードンやマルクスが、所有財産が積極的な個人的利用に向かわないという批判の中で、賃金労働と奴隷制の比較を発展させました。

思想的背景：マルクス主義、シチュアシオニズム、オートノミズム、アナキズム

マルクス主義

ポール・ラファルグの『怠ける権利』は、当時の保守、リベラル、キリスト教、社会主義といった主要な政治的スタンスの労働観を批判しています。ラファルグは、労働権至上主義がもたらす人間の退化と隷属を描き、創造性と結びついた「怠惰」を人間の進歩の源泉として主張しました。

シチュアシオニズム

シチュアシオニスト・インターナショナルのラウル・ヴァネゲムは、『快楽の書』の中で、労働が快楽を奪い、快楽が労働を破壊すると主張し、労働、命令、服従といった人生からの解放を説きました。

オートノミズム

オートノミズムは1960年代のイタリアのワーケリスト運動から生まれた理論で、シチュアシオニズム、70年代のイタリア極左運動の失敗、ネグリなどの理論家の登場を経て、ポストマルクス主義、アナキスト的な要素を取り入れながら発展しました。

アナキズム

ボブ・ブラックの『仕事の廃止』は、生産・消費社会の廃止を訴え、仕事（強制生産活動）を悲劇の主要な原因とみなします。ブラックは、仕事の強制性、上司への従属、規則による劣等化、労働災害などを批判し、「働かなくてはいけない者などいない」と主張しました。彼は、自由意志に基づく「プレイ」（贈与経済）を理想とし、狩猟採集社会をその例として挙げました。この考えは、マーシャル・サーリンズの仕事の不可避駆動性に関する考えを援用しています。サーリンズは、今日の仕事の強制性が古代・中世の農奴のそれよりもはるかに過酷であると指摘しました。ブラックは、多くの仕事が不要であり、残った仕事も能動的に関われるものへと変容すべきだと主張します。

反労働倫理：労働の不幸と労働時間減少への問い

反労働倫理は、労働が不幸をもたらし、労働力の減少につながると主張します。この倫理はアナキストの間で顕著であり、ラッセルの「怠惰への賛歌」、イリイチの『有用な失業への権利』、ブラックの『仕事の廃止』などによって広まりました。
この倫理に対する批判として、ニーチェの思想が挙げられます。反労働倫理の支持者は、資本主義と共産主義社会が様々な手段で「労働」精神を促進していると批判し、機械化が進んだにもかかわらず平均労働時間が減少していない点を問題視します。

結論

労働拒否から反労働思想まで、様々な思想や運動は、労働のあり方、労働と人間の自由、経済システムとの関係性について多様な問いを提示してきました。これらの思想は、現代社会における労働問題、経済格差、生活の質といった問題を考える上で重要な示唆を与えてくれます。 今後の社会における労働の在り方、そして人間の自由との調和を模索していく上で、これらの歴史と思想を理解することは不可欠です。

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