勝井騒動

勝井騒動（かついそうどう）

勝井騒動は、元治元年（1864年）10月から翌慶応元年（1865年）5月にかけて対馬藩で発生した内紛です。

背景

対馬藩では対馬事件以降、藩内の対立が深刻化していました。藩主・宗義達の後見人であった勝井五八郎（員周）と家老・大浦教之助が激しく対立します。

勝井は、ロシアなどの外国勢力から対馬を守るには幕府の支援が不可欠と考え、佐幕派として行動し、幕府勢力の支持を得ていました。一方、大浦は宗氏と縁戚関係にあった長州藩（宗義章の正室が毛利斉熙の娘）の支援を受け、攘夷を主張し、尊攘派勢力の支持を集めていました。

尊攘派は、軽輩出身の勝井に対し反発する藩士を巻き込み、藩校・日新館を拠点に勢力を拡大していきます。しかし、藩主・義達を長州藩領に一時退避させるという計画が持ち上がると、藩内に尊攘派への反感も生まれていました。

騒動の勃発

藩主・義達は次第に尊攘派に傾倒していきますが、中央では八月十八日の政変以降、長州藩が苦境に立たされます。これに危機感を抱いた勝井は、元治元年（1864年）4月23日、大浦の嫡男で勘定奉行を務めていた申禄（作兵衛）を暗殺し、飛領のあった肥前国田代（現在の佐賀県鳥栖市）へ出張名目で逃亡します。

田代に入った勝井は、大浦が病に倒れたことを知り、政権奪還の好機とみて、現地の代官・平田達弘（大江）と共に挙兵を計画します。平田は尊攘派でしたが、大浦に代わる尊攘派の指導者としての地位を狙い、勝井に協力することにしました。

元治元年（1864年）10月13日、平田の支援で兵を集めた勝井は、対馬の藩主邸を占拠し、家老に就任して政権を掌握、藩主の周防移転を中止させます。10月25日には、幽閉されて抗議の絶食をしていた大浦が死去すると、勝井は日新館関係者ら尊攘派を処刑、あるいは自害させました。その数は大浦を含めて107名に達したとされます。

平田の裏切りと騒動の終結

田代に残っていた平田は、突如、長州藩や福岡藩など尊攘派諸藩に対し、対馬藩の危機を訴え、勝井打倒を呼びかけます。また、田代に亡命してきた日新館関係者ら尊攘派や、勝井の粛清に失望した人々を受け入れ、尽義隊を結成して反勝井を宣言します。

長州藩や三条実美らが派遣した詰問使、藩内に広がる反勝井の動きに動揺した藩主義達は、翌慶応元年（1865年）5月2日（または3日）になって勝井を討ちます。これを見た平田は6日に尽義隊を率いて対馬へ帰還しますが、大浦と勝井の共倒れが平田の策略であったことが明らかになると、平田は引退を余儀なくされ、慶応元年（1865年）11月11日に斬罪となりました。

勝井騒動は、対馬藩における佐幕派と尊攘派の対立、長州藩などの思惑が複雑に絡み合った内紛であり、幕末の動乱期における地方政治の混乱を象徴する事件の一つと言えます。

参考文献

長節子「勝井騒動」『国史大辞典 3』（吉川弘文館 1983年） ISBN 978-4-642-00503-6
森山恒雄「勝井騒動」『日本史大事典 2』（平凡社 1993年） ISBN 978-4-582-13102-4
* 木村直也「勝井騒動」『日本歴史大事典 1』（小学館 2000年） ISBN 978-4-09-523001-6

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