勢至菩薩

勢至菩薩（せいしぼさつ）

勢至菩薩は、梵名マハースターマプラープタ（महास्थामप्राप्त [mahāsthāmaprāpta]）といい、仏教における菩薩の一尊です。「大勢至菩薩」「大精進菩薩」「得大勢菩薩」とも呼ばれます。日本では午年の守り本尊、十三仏の一周忌本尊として知られています。三昧耶形は未敷蓮華（ハスの蕾）、種子（種子字）はサク（सः saḥ）です。

概要

勢至菩薩は、阿弥陀三尊の右脇侍として、観音菩薩とともに阿弥陀如来の傍らに侍ります。『観無量寿経』には、「知恵をもってあまねく一切を照らし、三途を離れしめて、無上の力を得せしむ故に大勢至と名づく」と説かれています。この経典によれば、勢至菩薩は、火途・血途・刀途の三途、すなわち迷いと苦しみの世界から人々を知恵によって救い、仏道に導き、正しい行いをさせる菩薩であるとされます。また、『薬師如来本願功徳経』では、八大菩薩の一尊としてその名が挙げられています。

四国八十八箇所霊場では、第53番札所の須賀山圓明寺で勢至菩薩の朱印がもらえます。また、京都十三仏霊場では、第9番札所の大内山仁和寺が勢至菩薩を祀っています。

像容

日本では、勢至菩薩が単独で信仰の対象となることは稀で、多くは阿弥陀三尊の脇侍として造像されています。観音菩薩が宝冠の前面に化仏を表すのに対し、勢至菩薩は水瓶を付けることが多いです。来迎形式の阿弥陀三尊像では、観音菩薩が蓮台を捧げ持つ姿で表されるのに対し、勢至菩薩は合掌する姿で表されるのが一般的です。

中世には、長野の善光寺如来（善光寺式阿弥陀三尊）の模刻像が盛んに造られるようになり、この時は、観音菩薩と勢至菩薩の両菩薩が胸前で両手を合わせる姿で造形されました。

真言

勢至菩薩の真言は以下の通りです。

おん さんざんざん さく そわか
おん さんぜんぜん さく そわか

浄土宗における法然信仰

中世以降、法然上人を勢至菩薩の化身とする説が広まりました。法然は幼名を勢至丸といい、「智慧第一の法然坊」と称されたことから、生前から知恵の化身と考えられていたようです。法然の没後、弟子の親鸞は「大勢至菩薩和讃」を詠み、その末尾で「大勢至菩薩は源空上人（法然）の御本地である」と述べています。また、親鸞の妻である恵信尼が見た霊夢に、光り輝く御仏が現れ、それが勢至菩薩であり、法然のことであると告げられたという話が「恵信尼消息」に記されています。

京都の知恩院には勢至堂が建てられ、本尊として勢至菩薩像が安置されています。この像は、来迎阿弥陀三尊の脇侍としての勢至菩薩と同様、合掌形に表されています。これは法然上人が勢至菩薩の化身であるという信仰に基づくものです。

中国における勢至菩薩

勢至菩薩は中国でも非常に重視されており、日本と同様に阿弥陀三尊の脇侍として信仰されています。中国の江蘇省南通には勢至菩薩の道場である狼山があり、その名が知られています。また、中華民国時代の高僧であり、浄土宗の第十三代祖師である印光大師は、勢至菩薩の生まれ変わりであると人々に信じられています。

関連項目

* 仏の一覧

脚注

1. 参考資料1
2. 参考資料2

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