北アイルランドのカウンティ

北アイルランドのカウンティ：歴史と地理の変遷

北アイルランドを理解する上で欠かせない要素の一つに、カウンティの存在があります。1921年から1972年まで、北アイルランドは6つのカウンティ（県）を主要な地方行政区画としていました。日本語では「州」と訳される場合もありますが、高度な自治権は持っていませんでした。これらのカウンティは、歴史的なアルスター地方の約3分の2を占めています。アントリム、アーマー、ダウン、ファーマナ、ロンドンデリー/デリー、ティロンの6つです。

カウンティの起源と発展

北アイルランドのカウンティの境界は、17世紀初頭に確定したものです。ただし、その起源は遥か昔に遡ります。ノルマン人のアイルランド侵攻（1169～1170年代）以降、イングランドによる支配が強まるにつれ、アイルランドはカウンティと呼ばれる行政区域に分割されていきました。現在の北アイルランド地域においては、1607年の「伯爵たちの退去」と呼ばれる出来事の後、アルスター地方の分割が進み、現在のカウンティの基礎が築かれました。

13世紀から17世紀にかけて、カウンティの設置や境界の変更が繰り返されました。アントリムとダウンは、ジョン・ド・カーシーによるウラッド征服に端を発するアルスター伯爵領に起源を持ちます。14世紀には、ノルマン人の拠点を中心に行政上のカウンティが形成されましたが、ブルースのアイルランド侵略（1315～1318年）による荒廃やアルスター伯爵領の衰退によって、その後の発展は複雑さを増していきます。

エリザベス1世女王の治世には、既存の領主境界を踏襲しつつ、アーマー、コールレーン、ファーマナ、ティロンといった新たなカウンティが設定されました。1777年まで独立した存在として扱われていたキャリックファーガスも、その後アントリム県に編入されました。このように、それぞれのカウンティの歴史は、アイルランドの歴史そのものと複雑に絡み合っています。

バロニーと行政区分

カウンティの下には、バロニーと呼ばれる、カウンティとパリッシュ（小教区）の中間的な区画が存在しました。バロニーは、歴史的なアイルランド諸部族の境界を反映している場合もあります。17世紀初頭のアルスター植民では、既存の王国領がバロニーに置き換えられ、課税や行政の目的で使用されました。ウィリアム・ペティによるダウン・サーベイや、19世紀の人口調査など、様々な記録において、バロニーは重要な単位として用いられてきました。現代では、バロニーは行政区分としての機能を失っていますが、歴史を知る上で貴重な情報源となっています。

カウンティの統治と現代的用法

1898年の地方統治機構改革では、カウンティは地方行政区分としても機能しました。ベルファストとロンドンデリーはカウンティ・バラ（カウンティと同格の都市）として独立した地位を有していました。しかし、1972年にはこれらの制度が廃止され、26の単一自治体が新設されました。新しい自治体の境界は、従来のカウンティ境界を必ずしも尊重したものではありません。

それにもかかわらず、従来の6つのカウンティと2つのカウンティ・バラは、行政以外の目的で存続しており、自動車のナンバープレートや、1996年までは郵便番号システムにも反映されていました。現在でも、歴史的、文化的、そして地域的なアイデンティティを維持する上で、カウンティは重要な役割を担っています。

県総督とかつて存在したカウンティ

北アイルランドは、儀礼的な名誉職である県総督の管轄区域に分けられています。アントリム、アーマー、ダウン、ファーマナ、ティロンの各県に加え、ロンドンデリー県、シティ・オブ・ロンドンデリー、ベルファストの総督が任じられています。

歴史的には、現代の北アイルランド地域には、コールレーン県やキャリックファーガス県など、現在とは異なる名称や領域を持つカウンティが存在していました。また、1549年にはアルスター地方全体が一つのカウンティとされていた時期もありました。これらの変化は、アイルランドの歴史と政治的状況を反映したものです。

まとめ

北アイルランドのカウンティは、単なる行政区分以上の意味を持ちます。その歴史は、アイルランドの複雑な過去と深く結びついており、現代の北アイルランドの社会や文化を理解する上で重要な鍵となっています。この歴史的背景と地理的状況を踏まえることで、北アイルランドの現在そして未来をより深く理解することができるでしょう。

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