北尾まどか

北尾まどか女流二段（最終段位）は、1980年1月21日、東京都目黒区に生まれ、西村一義九段門下として将棋界で活躍した元女流棋士です。2023年7月10日に現役を引退するまで、競技者としてだけでなく、将棋の普及活動にも多大な貢献をしました。

将棋との出会いは幼少期でしたが、本格的に始めたのは高校に入学してからです。しかし、その上達速度は目覚ましく、わずか1年余りでアマチュア二段レベルの実力を身につけました。1997年10月、17歳で女流育成会に入会。3年間の育成期間を経て、2000年10月1日に女流2級としてプロデビューを果たしました。その後、2003年4月1日に女流初段、2013年8月17日には公式戦での勝数規定を満たして女流二段へと昇段しています。棋士としてのキャリアを通じて、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会（LPSA）、フリー期間を経て再び日本将棋連盟（客員棋士、後に再入会）と、複数の所属形態を経験した点も彼女のユニークな経歴の一つです。LPSA時代には理事として協会の運営にも携わりました。現役時代には女流名人位戦A級リーグにも名を連ねるなど、実力のある棋士としての一面も持っていました。2023年4月1日、女流棋士引退規定により、同年7月10日の対局をもって現役生活に終止符を打ちました。通算成績は110勝187敗でした。得意戦法としては、居飛車穴熊や玉頭位取りを駆使し、堅い守りからの攻めを得意としました。

北尾氏の将棋人生において、競技と同等、あるいはそれ以上に重要な位置を占めたのが、将棋の普及活動です。LPSA所属時代から、教室運営やイベント企画に積極的に関与していましたが、LPSA退会後の2010年1月20日には、将棋普及を専門とする会社「株式会社ねこまど」を自ら設立しました。この「ねこまど」を拠点に、将棋教室の運営、初心者向けのイベント企画、指導者の育成など、将棋の間口を広げるための多岐にわたる活動を展開しました。特に、「とちぎ将棋まつり」や、人気企画「将棋対局～女流棋士の知と美～」などでは、「ねこまど」が企画運営の中心となり、北尾氏自身もプロデューサーとしてイベントを盛り上げました。

普及活動の最大の成果の一つと言えるのが、子ども向け将棋ゲーム「どうぶつしょうぎ」の考案です。2008年頃に生まれたこのゲームは、盤や駒をシンプルにし、駒の動きを絵で示すなど、将棋を知らない子どもでも直感的に楽しめるように工夫されており、累計60万個を超える驚異的なヒット商品となりました。これを機に、どうぶつしょうぎをベースにした「ごろごろどうぶつしょうぎ」や「アンパンマンはじめてしょうぎ」といった関連商品の監修も手がけ、将棋の楽しさを伝えるためのツールを次々と生み出しました。

また、北尾氏の普及活動は国内に留まらず、海外へも積極的に展開されました。欧米やアジアなど、世界各地を頻繁に訪れて将棋を紹介し、国際的な普及に尽力しました。中でも、ポーランドで将棋を独学していたカロリーナ・ステチェンスカ氏との出会いは特筆すべき出来事です。2011年に彼女を日本に招き、その後も研修会への入会サポートや将棋修行の支援を行うなど、カロリーナ氏が外国人女性として初の女流棋士となる過程で、北尾氏は文字通り師のような存在として多大な貢献を果たしました。2019年には二人の公式戦での対局が実現し、カロリーナ氏が勝利後に感極まって感謝の意を述べる場面は、多くの将棋ファンの感動を呼びました。

普及に関する著作も多数あります。NHK将棋講座のテキストの共著や、将棋の定跡書を英訳したシリーズの出版、どうぶつしょうぎ関連の書籍執筆・監修など、初心者や海外向けに将棋を分かりやすく伝えるための書籍を多く手掛けています。また、将棋をテーマにした人気漫画「それでも歩は寄せてくる」では監修を務め、将棋の魅力を間接的にも広めました。

私生活では、2006年に棋士の片上大輔氏と結婚しましたが、2014年頃に離婚しています。

北尾まどか氏は、女流棋士としての戦績以上に、将棋の普及家としての功績が非常に大きい人物です。「どうぶつしょうぎ」の考案、株式会社ねこまどの設立・運営、そして国内外での熱心な普及活動を通じて、将棋という文化の間口を広げ、新たな世代に将棋の楽しさを伝えたその貢献は、将棋界にとって計り知れない価値を持つものです。現役は引退しましたが、その普及への情熱は今後も様々な形で将棋界を支え続けることでしょう。

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