玉頭位取り

玉頭位取り：古き良き対振り飛車戦法

玉頭位取りは、将棋における対振り飛車戦法の一つです。その歴史は古く、元禄時代まで遡りますが、主流戦法として広く認知されたのは昭和時代、特に1970年代と考えられています。主に中飛車に対して有効な戦法として知られており、先手番では7六の地点に銀を配置し、これを拠点とした攻めを展開します。

戦法の概要と特徴

この戦法の基本は、7六の銀で7筋の位を取ることにあります。うまく形が整えば、振り飛車側は囲いの構築や右桂の活用が難しくなり、先手は堅牢な陣形を築くことができます。玉は広く構えることができ、容易に崩されることはありません。7六の銀を拠点に、8筋や6筋からも攻めを仕掛け、複数の位を獲得することで、中盤から終盤にかけて優位に立つことを目指します。終盤では、それまでに獲得した複数の位を生かし、玉頭攻めを仕掛けるなどして勝利を目指します。

しかし、玉頭位取りには弱点も存在します。まず、戦法が組み上がるまでに多くの手順を要し、その過程で玉型が不安定になることがあります。四間飛車や三間飛車に対しては、△4四銀～△5五歩の先攻を許したり、石田流への組み替えを許したりするなど、振り飛車側に有利な布陣を敷かれる可能性があります。

1983年の高橋氏のレポートによると、当時、居飛車対振り飛車対抗系の対局において、玉頭位取りは中飛車相手では比較的多く用いられていました。しかし、その後、居飛車穴熊の優秀性が認識されるにつれて、玉頭位取りは相対的に使用頻度が低下しました。対四間飛車や対三間飛車といった戦法においても、明確な優位性を見出すことができず、ツノ銀[[中飛車]]に対しても、ツノ銀[[中飛車]]自体が減少したことも相まって、玉頭位取りはプロの公式戦から姿を消していきました。藤井システム全盛期には、居飛車側の持久戦策としての再流行が期待されましたが、藤井システムの衰退により、その機会は訪れませんでした。

穴熊との比較と独自の利点

玉頭位取りは、一度有利な状況になれば、その優位性を維持し、逆転を許さないという点で、居飛車穴熊と類似しています。しかし、穴熊の方が終盤の読みが簡略化できるという利点があります。一方、玉頭位取りは、自玉を広く構え、敵陣を圧迫することで、終盤の寄せ合いの際に、横からの攻めに対して上部に脱出しやすく、相手の玉頭に攻撃を加えることができるという独自の利点があります。

著名な棋士と玉頭位取り

有吉道夫九段は、玉頭位取りを得意とした棋士として知られています。また、米長邦雄永世棋聖は、タイトル獲得時には、鷺ノ宮定跡と並んで玉頭位取りを対振り飛車対策として頻繁に使用していました。近年では、ゴキゲン[[中飛車]]や角交換振り飛車といった戦法に対しても、玉頭位取りが用いられるケースが見られます。例えば、2011年の竜王戦決勝トーナメントでは、山崎隆之八段が久保利明九段に対して玉頭位取りを用いています。これは、角交換振り飛車の場合、穴熊に組むのが難しいという事情があるためです。

玉頭位取りの具体的な展開例

玉頭位取りの具体的な展開例としては、2017年の王座戦一次予選、藤井聡太四段対小林健二九段戦が挙げられます。この対局では、両者が角を持ち合った状態で、後手は△1四歩～△1三角、先手は▲7六銀～▲6五歩と進みました。後手が6筋を手抜きして△4四銀と指したことにより、先手は多くの攻め筋を生み出すことができました。この例は、振り飛車側が△7四歩と位を取らせるのを拒否することが難しい状況を示しています。

昭和時代には、振り飛車側が穴熊囲いに組むことも有力な対抗策とされていました。これは、位取り側からの攻めの取っ掛かりを消すことで、作戦勝ちを狙う戦略です。しかし、玉頭位取り側も、歩が持ち駒になった後の端攻めという狙いを持っています。

飯野流と神吉流

玉頭位取りには、飯野流や神吉流といった変種も存在します。飯野流は、6六歩を突かずに骨組みを進めるスタイルで、神吉流は4枚の陣形に変化するスタイルです。これらの変種も、うまく組み上がれば作戦勝ちに繋がる可能性があります。

玉頭位取りは、歴史ある戦法でありながら、現代将棋においてもその価値を見出すことができる戦法と言えるでしょう。

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