北饗庭駅

北饗庭駅：江若鉄道の忘れられた駅

概要

北饗庭駅は、滋賀県高島市新旭町饗庭（旧・高島郡新旭町）に存在した江若鉄道の駅です。1969年の江若鉄道全線廃止に伴い、翌1970年に廃駅となりました。近江今津駅と饗庭駅の中間に位置するこの駅は、地域住民の強い要望によって建設されたという、歴史を持つ駅でした。

建設の背景

江若鉄道の安曇～近江今津間が1931年に開通した際、饗庭駅は用地取得の問題から、本来の位置より新儀駅寄りに設置されました。そのため、饗庭村の岡・木津地区の住民は駅が遠くなり、大きな不便を強いられていました。この状況を改善するため、地元住民の熱意ある陳情が実り、北饗庭駅の建設が決定したのです。

開業と廃止

1932年4月1日、北饗庭駅は開業しました。それから37年後、江若鉄道の全線廃止という歴史的転換点の中で、北饗庭駅も1969年11月1日にその歴史に幕を閉じました。わずか37年間という短い期間でしたが、地域住民の生活に密着した重要な交通拠点として機能していたと言えるでしょう。

駅舎と構造

北饗庭駅は、無人駅でした。ホームは近江今津方面に向かって左側に1面のみのシンプルな構造で、瓦葺きの待合室が設置されていました。乗客の乗降のみを目的とした、質素ながらも必要な機能を備えた駅舎だったと思われます。

利用状況と周辺環境

駅周辺は田園地帯が広がっていました。しかし、旧国道が駅近くを通っていたため、利用客は少なくありませんでした。初期の年間乗降客数は正確なデータがありませんが、周辺住民の生活を支える重要な役割を果たしていたと考えられます。

現在は、駅があった場所は旧国道と国道161号が交わる饗庭交差点のやや南にあたり、江若鉄道の廃線跡は、一部区間が一般道として残っているものの、大部分は湖西線の建設によって消滅しています。

駅周辺の現状

江若鉄道の廃線後、駅周辺の環境は大きく変化しました。線路跡地は湖西線に転用され、交通網は近代化されました。駅舎そのものは存在しませんが、地域住民の記憶の中で、北饗庭駅は、かつてこの地に存在した、かけがえのない交通の歴史を伝える存在として生き続けています。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『企画展 ありし日の江若鉄道 ―大津・湖西を結ぶ鉄路（みち）―』大津市歴史博物館、2006年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号（通巻192号）、鉄道図書刊行会、1967年1月
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
* 「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

隣の駅

江若鉄道
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