饗庭駅

饗庭駅：江若鉄道の面影をたどる廃駅

滋賀県高島市新旭町旭（旧・高島郡新旭町大字旭）に存在した、江若鉄道の饗庭駅は、1931年（昭和6年）に開業、1969年（昭和44年）に廃駅となった歴史を持つ駅です。江若鉄道安曇駅 - 近江今津駅間の延伸開業に伴い誕生しましたが、用地取得などの問題から、当初計画されていた位置よりも新儀駅寄りの場所に建設されました。このため、近江今津駅との距離が長くなり、その後の北饗庭駅の設置につながったとされています。

当初の計画では、1930年（昭和5年）8月末の開業を目指していましたが、饗庭駅の建設遅延が原因で、開業は翌年1月1日にずれ込みました。開業当初は、旅客と貨物の両方を扱う一般駅で、島式ホーム1面を有し、列車の交換が可能な構造でした。しかし、後に交換設備が撤去され、棒線駅へと変更されています。貨物側線や貨物ホームも備えており、周辺地域からの農作物、特に米の出荷拠点として重要な役割を果たしていました。晩年は委託駅として運営されていました。

駅の周辺環境も、その歴史を物語っています。駅前には農協の事務所や倉庫があり、収穫された米はここから出荷されていました。また、駅の東側には田井帝釋天堂があり、かつては天然記念物に指定されていた巨木もありましたが、1934年（昭和9年）の室戸台風で倒壊したと言われています。江若鉄道の廃線後は、線路跡が湖西線の用地となり、駅周辺は空き地と倉庫群という姿に変わりましたが、米の出荷拠点としての面影は、今も倉庫群の姿に見て取れると言われています。

年間乗降客数や貨物取扱量については、開業から数年間にわたり記録が残されています。これらは、当時の地域経済や交通事情を知る上で貴重な資料となっています。これらのデータから、饗庭駅の利用状況や、江若鉄道における位置づけを具体的に分析することができます。

饗庭駅の存在は、江若鉄道の歴史、そして地域の変遷を知る上で重要な意味を持ちます。廃線から年月が経ち、駅の建物は現存しませんが、周辺に残る痕跡や記録から、その歴史と役割を想像することができます。駅跡を訪れ、当時の賑わいを偲ぶこともできるでしょう。

駅の概要
所在地：滋賀県高島市新旭町旭（旧・高島郡新旭町大字旭）
開業：1931年（昭和6年）1月1日
廃止：1969年（昭和44年）11月1日
接続路線：江若鉄道江若鉄道線
隣の駅：新旭駅 - 饗庭駅 - 北饗庭駅
駅構造：島式ホーム1面（開業当初）、棒線駅（廃止時）
その他：旅客・貨物取扱駅、晩年は委託駅

参考文献
今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号（通巻192号）、鉄道図書刊行会、1967年1月
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング、2010年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

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