十三妹 (絵物語)

山川惣治『十三妹』：未完の英雄叙事詩

『十三妹』は、山川惣治が『月刊小説王』に1983年から1984年にかけて連載した絵物語です。著者にとっては『少年バーバリアン』以来、16年ぶりの復帰作でしたが、掲載誌の休刊と作者の死去により、惜しくも未完となりました。

あらすじ

舞台は清朝、乾隆帝の時代。嵩山少林寺の僧、白道老師は後継者を探し求め、中国を旅していました。西安で暴れ馬に襲われそうになった幼子を救ったのは、一人の勇敢な少女。彼女こそ、石何紀将軍の娘、玉鳳、後の十三妹でした。白道老師は彼女の才能を見抜き、武術と学問の全てを教え込む決意をします。

物語は、十三妹の生い立ちと修行時代を中心に展開されます。彼女の超人的な能力は、たゆまぬ努力によって培われたものであるという、山川作品に通底するテーマが描かれています。

しかし、十三妹が数々の冒険を繰り広げるはずだった物語は、作者の死によって途絶えてしまいました。

登場人物

十三妹（玉鳳）：

本作の主人公。お転婆な少女でしたが、白道老師との出会いをきっかけに才能を開花させます。霊感の持ち主で、危機に瀕すると銀色の飛行物体が現れます。紀献唐の策略によって西安を追われ、母親と共に逃避行を余儀なくされます。

石何紀（シーホーキ）：

十三妹の父親。漢軍八旗黄正旗軍の将軍で紀献唐の副将。その武勇と実直さゆえに紀献唐に疎まれ、謀反の罪を着せられて命を落とします。

玉麗：

十三妹の母親。尚王の血筋。龍頭観音に子授けを祈願し、白龍が胎内に入る夢を見て玉鳳を身ごもります。無実の罪で西安を追われ、逃避行中に悪霊の毒に侵され、余命幾ばくもなくなります。

孫三（ソンサン）：

十三妹に命を救われた浮浪児。以来、十三妹親子と行動を共にします。身軽で、十三妹から武術を学びます。

紀献唐：

乾隆帝の信任が厚い人物。青海地方の叛乱平定の功績を独り占めし、私腹を肥やします。石何紀を謀殺し、悪逆の限りを尽くします。

紀多文：

紀献唐の三男。女好きで傍若無人な性格。十三妹を我が物にしようとしますが拒絶され、逆恨みします。

夏雲銘：

石何紀の参謀。紀献唐に買収され、石何紀の訴状を握りつぶし、十三妹一家を陥れます。

三悪狼：

盗賊団の首領である金狼悪奴を筆頭とする兄弟。略奪の限りを尽くし、村人を虐殺します。

白龍星：

白銀の飛行物体の中にいる老人。地球から遠く離れた白龍星の長老で、地球を救うために十三妹を遣わしました。

チェンラン：

犬ほどの大きさの白龍。人語を話し、十三妹の危機に現れます。

白道：

十三妹の師匠。嵩山少林寺で修行を積んだ僧で、白龍の幻に導かれて十三妹と出会います。9年間十三妹を教導し、武術の奥義を授けます。

小梅（シャオメイ）、李麗（リリー）：

十三妹の乳母とその姪。玉麗の身代わりとして紀献唐に捕らえられます。

謝紅燕：

西安一の舞姫。十三妹に命を救われた恩義から、十三妹の逃亡に協力します。

張文英：

柳安村の地主。三悪狼から村を守るため、十三妹に助けを求めます。

悪霊：

狼の頭を持つ正体不明の怪物。十三妹の持つ日本刀“白龍天”を恐れています。

銀雷：

十三妹の愛馬。普段はみすぼらしい馬ですが、十三妹が呼びかけると白銀の霊馬に変貌します。

チグリ：

異次元の荒野に住む小人の王。銀雷を奪おうと十三妹を追いかけます。

白龍天：

十三妹の愛刀。石家の家宝で、日本の刀工、相州伝五郎正宗作。

銀龍：

石家伝来の弾弓。石何紀と十三妹以外には引くことができません。

刊行情報

第1巻 龍の章 角川書店 1985年12月
第2巻 虎の章 角川書店 1985年12月

関連事項

* 武侠小説

『十三妹』は、壮大な世界観と魅力的なキャラクターが織りなす、山川惣治の幻の復帰作です。未完に終わったことが悔やまれますが、その独特な世界観は今もなお多くのファンを魅了し続けています。

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