十思スクエア

東京都中央区日本橋小伝馬町に立つ十思スクエア（じっしスクエア）は、かつてこの地にあった中央区立十思小学校の校舎を有効活用した公共複合施設です。地域住民へのサービス提供を目的とした「地元還元施設」として機能しており、歴史的な価値を持つ建物が現代のニーズに応える形で生まれ変わりました。

建物の歴史と変遷

十思小学校の校舎は、1923年（大正12年）に発生した関東大震災からの復興事業の一環として、1928年（昭和3年）に建設されました。耐震・耐火構造を備えた鉄筋コンクリート造りの復興小学校として、地域の教育を支えてきましたが、児童数の減少などにより1990年（平成2年）に中央区立東華小学校と統合され、その歴史に一旦幕を下ろしました。

廃校となった後も、旧校舎はすぐに取り壊されることなく活用が続けられました。統合によって誕生した中央区立日本橋小学校の仮校舎として利用されたほか、中央区の出張所の仮庁舎としても一時的に使用されました。そして、建物の価値を活かしつつ、地域社会に貢献する新たな役割を与えるべく改修が行われ、2000年（平成12年）に「十思スクエア」として再生されました。

施設の内容

十思スクエア本館である旧校舎には、地域の福祉を支える多様な施設が入居しています。具体的には、高齢者などの相談に応じる地域包括支援センター、在宅での療養をサポートする訪問看護ステーション、そして子育て世代を支援する保育園など、様々な世代に対応した福祉サービスが集約されています。

また、旧校舎に隣接する体育館の跡地には、新たに「十思スクエア別館」が建設されました。この別館は、旧校舎のデザインテイストを踏襲しており、景観との調和が図られています。別館には、地域の憩いの場である銭湯「十思湯」や、この地の歴史を伝える「伝馬町牢屋敷展示館」が設けられており、地域住民だけでなく、外部からの訪問者にも開かれた施設となっています。

歴史的な背景

十思スクエアが立つ日本橋小伝馬町の周辺は、江戸時代において重要な歴史的舞台でした。特に、江戸幕府の直轄牢獄である「伝馬町牢屋敷」が置かれていた場所として知られています。幕末には、安政の大獄によって捕らえられた吉田松陰など、多くの思想家や志士たちがここで最期を迎えました。十思スクエアに隣接する十思公園には、伝馬町牢屋敷の歴史や吉田松陰終焉の地であることを示す石碑が建立されており、かつての記憶を今に伝えています。

建築と歴史的価値

旧十思小学校校舎は、鉄筋コンクリート造り3階建ての堅牢な建物です。特徴的なのは、角地に位置することを活かした曲線的な構成の正面玄関であり、また、1階と3階部分に設けられたアーチ型の窓や装飾は、建物に優美な印象を与えています。これらのデザインは、当時の東京市土木局建築課によって手がけられました。

その歴史的、建築的な価値が評価され、2004年（平成16年）度には東京都選定歴史的建造物として指定されました。これにより、建物の保存と活用が一層推進されることとなりました。

「十思」の名称由来

旧十思小学校の校名、そして現在の十思スクエアの名称に含まれる「十思」には、深い由来があります。これは、中国唐代の政治家・魏徴（ぎちょう）が皇帝に奉ったとされる諫言書『十思之疏（じっしのそ）』、すなわち君主が心得るべき十箇条の重要な教えにちなんでいます。さらに、小学校が開校した当時の所在地の区画が「十四番地」であったことも、同音であることから校名の由来の一つとなったとされています。この名称の由来に関する説明板は、十思スクエア別館の外壁に掲示されており、訪れる人々に建物の背景にある物語を伝えています。

所在地とアクセス

十思スクエアは、東京都中央区日本橋小伝馬町5-1に位置しています。
最寄り駅は、東京メトロ日比谷線の小伝馬町駅で、4番出口から徒歩およそ3分という良好なアクセスです。

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