十日間戦争

十日間戦争（スロベニア独立戦争）

1991年、スロベニアが独立を宣言したことを契機に、ユーゴスラビア連邦軍がスロベニアに侵攻し、十日間戦争（スロベニア独立戦争）が勃発しました。この短期間の戦闘は、泥沼化するユーゴスラビア紛争の幕開けとなりました。

背景

スロベニアは、ユーゴスラビア構成国の中でも特に高い経済水準と民族の均一性を誇っていました。また、1980年代以降、ユーゴスラビア全土で高まったナショナリズムも、この戦争の背景にあります。

経済水準の高さ

スロベニアは、ユーゴスラビアの中でも経済的に最も豊かな地域でした。人口は全体の10%に満たないものの、雇用、所得、輸出の数値は最も高く、最貧地域との経済格差は8倍にも及びました。2004年には旧ユーゴスラビア構成国の中で最初にEUに加盟し、一人当たりのGDPは東欧諸国の中でもトップクラスでした。この経済的優位性は、西ヨーロッパとの地理的な近さや、勤勉を尊ぶ文化に起因しています。オーストリア・ハンガリー帝国時代にはオーストリア帝国領であったため、ドイツ文化の影響も強く、ドイツ語を話せる人も多くいました。

このような状況から、スロベニアは「政治の中心はセルビアにあるが、経済を牽引しているのは自分たちだ。独立すればさらに経済発展できる」と考え、独立への強い動機となりました。

民族的な均一性

スロベニアは民族的な均一性が非常に高く、人口の90%以上がスロベニア人でした。セルビア人が少数派だったため、セルビアからの介入を招く要因も少なく、民族的な結束を強めやすい状況でした。また、大セルビア主義などの民族統一主義の対象外であったことも、スロベニアの独立を後押ししました。

ナショナリズムの隆盛

1980年代には、セルビアでスロボダン・ミロシェヴィッチが登場し、連邦政府主導のユーゴスラビア結束を主張しました。これに対し、他の民族は反セルビアのナショナリズムを強め、特にクロアチア、スロベニア、コソボで独立の動きが活発化しました。

ヤンシャ事件

1988年には、スロベニアのジャーナリスト、ヤネス・ヤンシャが軍事機密漏洩罪で逮捕される事件が発生しました。この事件はスロベニア人の反感を買い、反セルビア感情を一層高めることになりました。裁判がセルビア・クロアチア語で行われたことも、反発を強める要因となりました。

東欧革命の影響

1989年の東欧革命は、ユーゴスラビアにも大きな影響を与えました。複数政党制が導入され、スロベニアではナショナリズムを掲げる中道右派連合が台頭しました。スロベニアとクロアチアは、ユーゴスラビアを「国家連合モデル」に変える提案をしましたが、セルビアとモンテネグロに拒否され、独立への流れが決定的なものとなりました。

十日間戦争の勃発

1991年6月25日、スロベニアはクロアチアと共に独立を宣言しました。スロベニア地域防衛軍は、連邦軍が管理する国境検問所を制圧し、ユーゴスラビア連邦軍はこれに対抗して侵攻を開始しました。スロベニア国内各地で戦闘が散発的に行われましたが、クロアチアも同時に独立を宣言したため、セルビアはスロベニアへの軍事介入を継続することが困難になりました。スロベニアは、連邦軍のライフラインを遮断し、情報戦でも優位に立ちました。ヨーロッパ諸国からの非難を恐れたユーゴスラビアは、7月2日に一部部隊の撤退を決定し、7月7日にはスロベニアからの完全撤退に合意しました。

戦争の影響

スロベニアは、この戦争の勝利によって独立を達成し、経済主権を手に入れました。独立直後は一時的に経済が落ち込みましたが、西ヨーロッパへの進出によって経済成長を遂げました。2004年にはEUに加盟し、2007年にはユーロを導入しました。スロベニアの独立は、他の旧ユーゴスラビア構成国にも大きな影響を与え、ボスニア・ヘルツェゴビナやマケドニアでも分離独立の動きを強めることになりました。

また、スロベニアに侵攻したユーゴスラビア連邦軍の司令官がスロベニア人であったため、後にスロベニアで反逆罪で起訴されましたが、裁判で勝利しました。しかし、軍人恩給の支給は拒否されました。

脚注

注釈

出典

参考文献

柴宜弘『ユーゴスラビア現代史』（岩波書店, 1996年） ISBN 4-00-430445-8

関連項目

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国
スロベニア軍
ニコラス・フォーゲル - オーストリア出身の俳優、カメラマン。6月28日にリュブリャナ空港で取材中、ユーゴスラビア連邦軍のミサイル攻撃により助手と共に殺害された。

もう一度検索