十輪寺 (京都市)

十輪寺：在原業平ゆかりの歴史と美しい自然が調和する寺院

京都市西京区大原野小塩町に位置する十輪寺は、天台宗に属する由緒ある寺院です。小塩山を背に、静寂な自然に包まれたその佇まいは、古都の奥深さを体感させてくれます。本尊は、伝教大師作と伝えられる延命地蔵菩薩。安産や子授けのご利益があるとされ、多くの人々の信仰を集めています。

歴史：皇室の祈願から歌人の隠棲まで

十輪寺の創建は、嘉祥3年（850年）に遡ります。文徳天皇が、女御である染殿皇后（藤原明子）の安産と世継ぎ誕生を祈願して、延命地蔵菩薩を祀ったのが始まりと伝えられています。祈願成就後、惟仁親王（後の清和天皇）が誕生すると、十輪寺は勅願所として栄えるようになりました。

平安時代初期には、六歌仙の一人として名高い在原業平が晩年をこの地で過ごしたとされています。境内裏山には、業平が塩焼きを楽しんだとされる塩竈（しおがま）の跡が残っており、この故事が周辺の地名「小塩」の由来ともいわれています。また、境内には樹齢約200年の「なりひら桜」（枝垂れ桜）が植えられており、春の美しい景色は多くの参拝者を魅了します。

平安時代中期には、花山法皇が西国三十三所を再興した際に、自身の背負っていた草分観世音を十輪寺に納めたという伝承も残っています。室町時代には応仁の乱の兵火により伽藍が焼失し、荒廃しましたが、その後、藤原氏の一流である花山院家の菩提寺となり、寛文年間（1661年～1673年）に再興されました。花山院家の庇護の下、堂宇が整備され、現在の姿へと至っています。

見どころ：歴史と自然が織りなす魅力

十輪寺には、歴史的建造物や美しい庭園など、多くの見どころがあります。

本堂（京都府指定有形文化財）：寛延2年（1750年）に再建された本堂は、鳳輦形（ほうれんがた）という珍しい屋根が特徴です。内部の天井彫刻や狛犬のような彫刻など、神仏習合の名残をとどめる独特の意匠が施されています。
三方普感の庭：江戸時代に花山院常雅が作庭した庭園です。小さな空間ながら、高廊下、茶室、業平御殿の三ヶ所から眺めることで、様々な表情を見せる癒やしの空間です。「立って見る」「座って見る」「寝て見る」という三通りの楽しみ方ができることから「三方普感の庭」と名付けられました。「普感」とは、仏の遍満する大宇宙を感じることです。春の「なりひら桜」も見事です。
鐘楼（京都府指定有形文化財）：寛文6年（1666年）に再建された鐘楼には、「不迷梵鐘」と呼ばれる鐘が吊るされています。迷っている時にこの鐘を撞くと、決心がつくと伝えられています。
大樟樹：樹齢800年と伝わる大樟樹は、本尊と同じ樟で作られていることから、本尊の分身とされています。
在原業平供養塔：境内裏山には、在原業平の供養塔である宝篋印塔と、「在原業平卿の墓」の石碑があります。
塩竈：在原業平が塩焼きを楽しんだとされる旧跡です。毎年11月23日には「塩竈清めの祭」が行われます。

寺宝と行事

十輪寺には、草分観世音菩薩像、花山法皇御手判、菩薩面、復元された襖絵など貴重な寺宝も数多く伝わっています。また、節分、業平忌法要、本尊御開帳、塩竈清め祭など、年間を通して様々な行事が行われています。

アクセス

JR向日町駅から阪急バスで約30分、「小塩」バス停下車すぐです。バスの本数が少ないため、注意が必要です。

十輪寺は、歴史、文化、そして自然が融合した、魅力あふれる寺院です。静寂な空間で、心安らぐひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

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