千里馬運動

千里馬運動とは

千里馬運動（チョルリマうんどう）は、1956年12月に、北朝鮮の最高指導者であった金日成が提唱した、経済発展と社会変革を目的とした大衆運動です。1957年から1961年にかけて実施された五ヶ年人民経済計画を推進するために、国民の生産意欲を高め、社会全体を大きく躍進させようという意図がありました。

運動の背景

千里馬運動は、北朝鮮初の共産主義的な大衆運動として位置づけられます。金日成が南浦の降仙製鋼所を訪問し、鋼材増産を指示したことが、この運動の直接的なきっかけとなりました。「千里馬」とは、一日に千里を走るという伝説の馬のことで、その勢いを借りて社会を発展させようという願いが込められています。降仙製鋼所はその後「千里馬製鋼連合企業所」と改称され、南浦には千里馬郡が設置されました。1960年には平壌に千里馬銅像が建てられ、運動の象徴となりました。

運動の展開

千里馬運動は、北朝鮮の社会主義建設を加速させる原動力となりました。労働者たちは、より多くの生産目標を達成するために奮闘し、その結果、工業生産や農業生産において目覚ましい進歩が見られました。しかし、この運動は単なる経済的な成果を追求するだけでなく、社会主義的な価値観を人々に浸透させることも目的としていました。そのため、労働者たちは、自己犠牲と集団主義の精神を養うよう奨励されました。

千里馬運動のその後

1960年代に入ると、千里馬運動は、社会主義にふさわしい大衆指導方式として青山里方式と大安の事業体系という二本柱に発展しました。1970年代になると、北朝鮮政府は、千里馬運動に代わって「三大革命赤旗獲得運動」（思想革命・技術革命・文化革命）を社会主義建設の総路線として提唱し、推進しました。

第二の千里馬運動

1999年からは、「第二の千里馬運動」が展開されています。これは、金日成の死後、金正日が千里馬製鋼連合企業所を訪問した際に、再び千里馬運動の精神を復興させようと提唱したことがきっかけです。この運動は、1950年代の千里馬運動の精神を受け継ぎ、経済の活性化と社会の発展を目指しています。

関連する運動

千里馬運動は、他の共産主義国家でも見られた大衆運動と類似点があります。中国の「大躍進政策」、旧ソ連の「スタハノフ運動」などがその例です。また、韓国では、同時期に「セマウル運動」が展開され、地域開発が進められました。セマウル運動は、千里馬運動に対抗する側面もあったと言われています。

千里馬運動は、北朝鮮の歴史において重要な意味を持つ運動であり、その精神は、現在も北朝鮮社会に影響を与え続けています。

参考文献

石坂浩一 著「第9章 自主路線の選択」、石坂浩一 編『北朝鮮を知るための55章【第2版】』明石書店〈エリア・スタディーズ〉、2019年1月（原著2006年）。ISBN 978-4-7503-4746-2。

関連項目

青山里方式
大安の事業体系
三大革命赤旗獲得運動
大躍進政策
スタハノフ運動
* セマウル運動

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