半索動物

半索動物（Hemichordata）

半索動物（学名: Hemichordata）は、脊索動物や棘皮動物などとともに新口動物と呼ばれる大きな動物群に属する後生動物（多細胞動物のうち、胚発生の過程で胚葉を形成する動物群）です。このグループは分類学上、「門」として位置づけられています。現在知られている現生種は90種程度と比較的少ないですが、その進化的な位置づけから生物学的に重要な研究対象となっています。

形態的、遺伝子的な解析から、半索動物は特に棘皮動物に近縁であると考えられています。しかし、新口動物全体の進化系統樹の中で、半索動物が他の新口動物よりも早期に分岐した、より基底的な側系統群であるとする説も提案されています。

現生の半索動物は、大きく分けて二つの主要なグループに分類されます。

腸鰓類（ギボシムシ類）：柔軟で細長い肉質の体を持ち、主に浅海の砂泥中に潜って生活しています。
翼鰓類（フサカツギ類）：分泌する管の中で暮らし、多くの個体が集まって群体を形成し、深海底などに固着しています。

また、古生代の地層から見つかる筆石（ふでいし）と呼ばれる化石は、絶滅した第三のグループであるフデイシ類に分類されており、半索動物の多様な進化の歴史を示しています。

特徴

半索動物は、いくつかの独特な形態的特徴を持っています。

1. 体の構造: 体は、吻（ふん）にあたる前体、襟（えり）にあたる中体、そして胴体である後体という、三つの連続した体部に分かれています。それぞれの体部には、それぞれ異なる数の真体腔（体内にできる空洞）が存在します。
2. 鰓裂（さいれつ）: 咽頭部には、鰓裂と呼ばれる対になった開口部があります。この鰓裂は、脊索動物のえらと同じ構造であり、両グループが共通の祖先を持つことを示唆する重要な特徴です。
3. 循環系: 血管系は開放血管系であり、明確な心臓ではなく、体の前部にある拍動性の器官（心胞）によって、無色透明な血液が体内を循環しています。
4. 生殖: オスとメスが分かれた雌雄異体です。繁殖は主に体外受精によって行われると考えられています。

脊索動物との関係

半索動物の学名「Hemichordata」は、「半分の脊索を持つ動物」という意味を持ちます。これは、かつてその吻部にある口盲管という構造が、脊索動物の脊索に相同（起源が同じ）であると考えられたことに由来します。実際、この口盲管が脊索に似ていることや、鰓裂を持つことから、脊索動物との類縁関係が指摘されてきました。

現在では、鰓裂を持つ点は脊索動物との近縁性を示す確かな証拠とされています。しかし、口盲管と脊索が本当に相同な構造であるかについては疑問が投げかけられています。例えば、脊索の形成に関わる特定の遺伝子（Bra遺伝子）が、口盲管の形成時には働いていないことが明らかになるなど、両者の相同性を直接支持する証拠は得られていません。

脊索動物と半索動物の共通祖先がどのような動物であったかについては、現在も議論が続いています。主に二つの説があります。

一つは、共通祖先がフサカツギのような固着性の生活を送る動物であり、そこから幼生の形態を残したまま成熟する幼形成熟（ネオテニー）という進化を経て、ギボシムシや脊椎動物のような自由生活性の動物が現れたとする説です。
もう一つは、ギボシムシのような自由生活性の動物が共通祖先であり、そこからフサカツギのような固着性の動物が分岐したとする説です。

近年の分子生物学的な解析、特に18SrDNAを用いた系統解析の結果などでは、ギボシムシに似た自由生活性の動物を共通祖先とする説を支持する傾向が見られます。

分類

半索動物門は、現生および絶滅したいくつかの綱に分類されます。

腸鰓綱（Enteropneusta）：いわゆるギボシムシ類。細長い蠕虫状の体を持ち、砂泥中に潜って生活します。体長は数センチから大きなものでは2メートルに達するものもいます。吻部が日本の建築にある擬宝珠（ぎぼし）に似ていることからこの名がつきました。英語では吻をドングリに見立てて acorn worm と呼ばれます。
翼鰓綱（Pterobranchia）：フサカツギ類。数ミリメートルの小さな動物で、分泌物で作った棲管の中で群体を形成します。中体からは、餌を集めるための触手を持つ腕が伸びています。
プランクトスフェラ綱（Planctosphaeroidea）： Planctosphaera pelagica という一種の幼生（プランクトスフェラ幼生）のみが知られている珍しいグループです。
筆石綱（Graptolithina）：絶滅したグループであるフデイシ類です。古生代に栄え、地層の年代を決める示準化石としてよく知られています。筆石として見つかる化石は、この動物が分泌した棲管の部分です。フサカツギ類に似た構造を持つことから、翼鰓綱に含められることもあります。
* ユンナノゾーン（Yunnanozoon）：中国雲南省のカンブリア紀初期の地層から発見された化石動物です。当初は脊索動物のナメクジウオに近いと考えられましたが、その後の詳細な研究により、半索動物の絶滅群に属すると発表されました。体長は約4cmで、やや扁平な胴体を持つ、海底を這い回っていたと考えられる動物です。

半索動物は、脊索動物の進化の起源を探る上で重要な鍵となるグループであり、その多様な形態や生活様式は、新口動物全体の進化史を理解する上で貴重な情報を提供してくれます。

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