卓敬

卓敬（たく けい、生年不詳 - 1402年）は、明代初期に活躍した官僚であり、字を惟恭と称した。彼の出身は温州府瑞安県である。

卓敬は、卓伯毅の子としてこの世に生を受けた。1388年（洪武21年）には科挙に合格し、進士の位を得た。彼は戸科給事中に任命され、その職務において、一切の遠慮なく率直な意見を述べた。当時、諸王の衣服が皇帝のものとほぼ同じであったため、卓敬はこれを嫡庶の秩序を乱すものとして、洪武帝に強く訴えた。この直言が皇帝の目に留まり、卓敬は重用されるようになった。

1389年（洪武22年）には、給事中から元士という官職に変わり、その後まもなく源士に改められたが、ほどなくして再び給事中の職に戻された。その後も様々な官職を歴任し、最終的には戸部侍郎にまで昇進した。

建文帝の時代に入ると、卓敬は燕王朱棣を北平から南昌に移封するよう建文帝に進言した。その翌日、建文帝に召喚され諮問を受けたが、この移封は実現しなかった。しかし、この進言は後の歴史に大きな影響を与えることとなる。

1402年（建文4年）、燕王朱棣が永楽帝として即位すると、卓敬はかつて燕王の移封を提言し、皇族間の不和を招いたとして捕らえられた。卓敬は尋問に対し、「先帝が私の進言を採用していれば、このような事態は避けられた」と主張した。永楽帝は卓敬の才能を惜しみ、最初は投獄するに留めた。そして、管仲や魏徴が新しい君主のために尽くした故事を引き合いに出し、卓敬を説得しようとした。しかし、卓敬は「先帝は不当に殺され、王位は簒奪された。死んで先帝に会えるならば、それが私の望みだ」と述べ、決して永楽帝に仕えることを拒否した。この時、かつてから卓敬と不仲であった姚広孝が、卓敬の意見が採用されていたならば、永楽帝の即位はなかったであろうと進言した。これを聞いた永楽帝は激怒し、卓敬を処刑し、さらにその一族全員を処刑した。

1645年（弘光元年）、南明の福王政権によって、卓敬は太子太保の位を追贈され、忠貞という諡号が贈られた。彼の著書には、『卓氏遺書』50巻があった。この書物は、彼の思想と行動を後世に伝える貴重な資料となっている。

卓敬の生涯は、その直言と忠誠心がもたらした悲劇を示す一方で、彼の高潔な精神と不屈の信念を今に伝えている。

参考文献

『明史』巻141 列伝第29
『罪惟録』志巻9

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