協奏交響曲

協奏交響曲（きょうそうこうきょうきょく）は、クラシック音楽における楽曲形式の一つで、複数の独奏楽器とオーケストラが協演する協奏曲の変種です。フランス語では「シンフォニー・コンセルタント（symphonie concertante）」、イタリア語では「シンフォニア・コンチェルタンテ（sinfonia concertante）」と呼ばれます。

概要

一般的な協奏曲は、一人の独奏楽器奏者とオーケストラが主役と脇役のように対比しながら音楽を展開する形式を指します。これに対し、協奏交響曲は、二つ以上の独奏楽器がグループを形成し、その複数奏者のグループとオーケストラとが、互いに協調したり対比したりしながら楽曲を進めていきます。この点が、協奏交響曲を通常の協奏曲と区別する最大の特徴です。

名称に「交響曲（シンフォニア）」という言葉が含まれていますが、これは必ずしも今日理解されている「オーケストラのためのソナタ」としての交響曲と同じ意味ではありません。むしろ、バロック時代に栄えた「合奏協奏曲（コンチェルト・グロッソ）」に倣い、複数の独奏楽器群（コンチェルティーノ）とオーケストラ（リピエーノ）が協演する形式を指しています。この名称は、ベートーヴェン以降に定着した大規模な管弦楽曲としての交響曲とは異なる、より古い時代の器楽合奏様式との関連を示唆しています。

この形式は、特に18世紀後半の古典派音楽の黎明期、マンハイム楽派の作曲家たちによって盛んに作曲されました。カール・シュターミツなどが代表的な作曲家ですが、より広く知られた作曲家ではヨーゼフ・ハイドンやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトもこの形式の優れた作品を残しています。マンハイム楽派は管弦楽の表現力を拡大し、緩やかなクレッシェンドやディミヌエンドといった奏法を発展させたことでも知られ、協奏交響曲においても楽器間の繊細な対話や豊かな響きを追求しました。

なお、19世紀前半の作曲家ヘンリー・チャールズ・リトルフが作曲した「交響協奏曲（コンチェルト・サンフォニック、concerto symphonique）」は、名称は似ていますが協奏交響曲とは異なります。リトルフの作品は、多くの場合単独のソロ楽器とオーケストラのために書かれており、ソロとオーケストラとの対比よりも、両者が融合し協調することを目指した形式であり、リストやブラームスといった後続の作曲家のピアノ協奏曲に影響を与えました。

20世紀以降の用法

厳密な形式としての協奏交響曲は古典派期に隆盛を迎えましたが、20世紀に入ってからも、自身の協奏曲に「協奏交響曲」という名称を与える作曲家が現れました。例えば、ベルギーの作曲家ジョゼフ・ジョンゲンは、オルガンと管弦楽のための作品を「オルガンと管弦楽のための協奏交響曲」と称しています。また、ポーランドのカロル・シマノフスキは、自身の交響曲第4番に「協奏交響曲」という副題を与え、実質的にはピアノ協奏曲としています。これらの例は、複数ソロ楽器のための協奏曲という本来の定義から離れ、作品名としてこの名称が用いられるようになったケースと言えます。

主な作品

協奏交響曲、またはその名称を持つ主要な作品には以下のようなものがあります。

ヨーゼフ・ハイドン
協奏交響曲変ロ長調 Hob. I:105 （ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴット）
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
協奏交響曲 変ホ長調 K.297b (K.Anh.C14.01) （オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット）
協奏交響曲 変ホ長調 K.364 （ヴァイオリン、ヴィオラ）
協奏交響曲 K.297B（フルート、オーボエ、ホルン、ファゴット、散逸または伝承作品）
カロル・シマノフスキ
交響曲第4番 作品60 『協奏交響曲』（ピアノ）
ジョルジェ・エネスク
協奏交響曲 ロ短調 作品8 （チェロ）
フローラン・シュミット
協奏交響曲 作品82 （ピアノ）
ジョゼフ・ジョンゲン
協奏交響曲 作品81 （オルガン）
エドマンド・ラッブラ
協奏交響曲 作品63 （ピアノ）
アレクサンドル・タンスマン
交響曲第3番（またはピアノと管弦楽のための協奏交響曲）（ピアノ）
ゲイル・シェッフェル
協奏交響曲 （1999年、4人のトランペット奏者）
フランク・マルタン
協奏交響曲 （小協奏交響曲の3管編成管弦楽版）
伊福部昭
ピアノと管絃楽のための協奏風交響曲 （1941年、ピアノ）

これらの作品に見られるように、協奏交響曲は多様な独奏楽器の組み合わせを可能にし、オーケストラとの間で豊かな対話とアンサンブルを展開する独特の魅力を備えた形式と言えます。

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