協奏的幻想曲 (チャイコフスキー)

協奏的幻想曲 ト長調 作品56

ピョートル・チャイコフスキーによって作曲された「協奏的幻想曲 ト長調 作品56」は、彼の音楽的才能と創造性が遺憾なく発揮された作品です。当初、ユルゲンソン社から「Fantasie de Concert（演奏会用幻想曲）」というタイトルで出版されましたが、その協奏的な性質から、日本では一般的に「協奏的幻想曲」として知られています。

概要

この作品は、1884年6月から10月にかけて作曲され、1885年3月6日にモスクワで初演を迎えました。独奏はセルゲイ・タネーエフ、指揮はマックス・エルトマンスデルファーが担当しました。初演から約20年間は頻繁に演奏されていましたが、その後レパートリーから外れ、長らく演奏されない時期が続きました。しかし、近年ではその音楽的価値が再認識され、再び注目を集めています。

作曲の経緯

1884年3月にロシアへ帰国したチャイコフスキーは、妹と共にカメンカで過ごす予定でしたが、オペラ「マゼッパ」の手直しが必要となったため、滞在は遅れました。彼は3月13日にフォン・メック夫人へ「力がみなぎってくるのを感じ、何か新しいものに取り掛からずにはいられない」と手紙を送っています。しかし、新作の着手は4月12日にカメンカに到着してからとなりました。

作曲当初、チャイコフスキーはどのような形式の楽曲にするか迷っていました。モスクワでの演奏会でリストの高弟であるオイゲン・ダルベールの演奏に感銘を受け、ピアノ協奏曲の制作に傾倒しました。しかし、1884年4月13日の日記には「ピアノ協奏曲の構想は浮かんだが、まだ貧弱で独自性がない」と記しています。彼はその後も試行錯誤を重ね、4月17日と18日にはトロスチアンカの森をさまよい、アイデアを書き留めました。

6月に入り、グランキノ滞在中に「組曲第3番」のスケッチをまとめた後、「協奏的幻想曲」の作曲を再開しました。当初、「組曲第3番」の第1楽章として構想していたものの、最終的に外した『コントラステス』を、この幻想曲の第2楽章に使うというアイデアがありました。開始楽章の『クワジ・ロンド』の最後にソリストのためのコーダを付けましたが、これは技術的には優れているものの内容が空虚であったため、『コントラステス』を省略する場合の代替として用いられることになりました。

初演

12月にロシア音楽協会の演奏会でタネーエフが演奏することが決定し、チャイコフスキーは10月から11月にかけて急ピッチで作曲を進めました。初演は1885年2月22日にモスクワで行われ、チャイコフスキー自身もこの演奏を高く評価しました。サンクトペテルブルクでの初演は1886年4月4日に行われ、ハンス・フォン・ビューローの指揮、タネーエフの独奏で行われました。

「協奏的幻想曲」はユルゲンソン社から出版されており、ピアノ4手版と2手版は1884年12月、オーケストラパート譜は1885年1月、総譜は1893年3月にそれぞれ出版されました。編曲版の楽譜にはアンナ・エシポワ、総譜にはゾフィー・メンターへの献辞がそれぞれ記されています。

演奏時間

演奏時間はおよそ30分です。

楽器編成

この楽曲は、ピアノ独奏に加え、フルート3、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、グロッケンシュピール、タンバリン、そして弦五部という編成で演奏されます。

楽曲構成

第1楽章：クワジ・ロンド（アンダンテ・モッソ）

「くるみ割り人形」を思わせる愛らしい旋律で始まるこの楽章は、A-B-A形式で構成されています。Aの部分は明るく協奏的な雰囲気で、Bの部分はより叙情的でピアノソロによって奏でられます。楽章名に「Quasi（～のように）」と付いているのは、ロンド主題が中間部に一度エピソードを挟み、最後に一度だけ再現されるためです。チャイコフスキーは、この楽章の2つの主題から古典的なロンド形式をイメージして名付けたのかもしれませんが、一般的なロンドとの関連性は薄いです。彼は独自の素材を用いて、ヴィルトゥオーゾ的なピアノ技巧を管弦楽とともに効果的に表現しています。

第2楽章：コントラステス（アンダンテ・カンタービレ - モルト・ヴィヴァーチェ - アレグロ・モデラート - ヴィヴァチッシモ - モルト・ピウ・トランクウィロ - ヴィヴァーチェ）

この楽章でも、形式上の問題が見られます。楽章はピアノのカデンツァで始まり、チェロのソロが対旋律を奏でる緩やかな第1主題と、急速で舞踏的な第2主題が対比されます。両者は互いにせめぎ合い、そのまま非常に明るい最後の部分へ移行します。これらの部分は、通常の協奏曲における緩徐楽章と終楽章の役割を果たしています。最後は華やかに全曲を締めくくります。

チャイコフスキーは「ピアノ協奏曲第2番」の作曲中に、ピアノとオーケストラの音が重なることを避け、両者をできる限り独立させようとしました。チャイコフスキー研究者のデイビッド・ブラウンは、ピアノ独奏で書かれた第1楽章の中間部を「前作で示された方向性の論理的帰結」と評しています。この中間部は、新しい素材に基づいているにも関わらずカデンツァのように聞こえ、ソナタ形式における展開部の代わりとなっていると捉えることもできます。

脚注

[注釈]

出典

[参考文献]

Blom, Eric, ed. Gerald Abraham, Music of Tchaikovsky (New York: W.W. Norton & Company, 1946) ISBN n/a.
Brown, David, Tchaikovsky: The Years of Wandering (New York: W.W. Norton & Company, 1986)
Schonberg, Harold C., The Great Pianists (New York: Simon & Schuster, 1987, 1963)
Steinberg, Michael, The Concerto (Oxford: Oxford University Press, 1998)
Warrack, John, Tchaikovsky (New York: Charles Scribner's Sons, 1973)
Warrack, John, Tchaikovsky Symphonies and Concertos (Seattle: University of Washington Press, 1969)

外部リンク

Concert Fantasia on Tchaikovsky-Research.net
Tchaikovsky-Research.net home page
協奏的幻想曲の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
協奏的幻想曲 ト長調 - ピティナ・ピアノ曲事典

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