南勢多郡

群馬県にかつて存在した南勢多郡は、明治時代にごく短期間ながら行政区画として設置されていた郡です。

伝統的な郡の区分である勢多郡は、国郡里制以来、近世に至るまでおおよそ継承されてきましたが、明治新政府による地方行政の改革の中で再編されることとなります。

具体的には、1878年（明治11年）に施行された郡区町村編制法に際し、広大な勢多郡から赤城山の北麓に位置する地域が北勢多郡として分けられ、その残りの大部分が南勢多郡として成立しました。この南勢多郡の区域は、後の1896年（明治29年）に郡制が施行されて新たに発足した勢多郡（第二次）の大部分を占める地域に相当します。

南勢多郡が正式に発足する以前、明治初年の時点でのこの地域は、多様な支配体制下にありました。前橋藩のほか、淀藩、泉藩、松嶺藩、佐野藩、岩槻藩といった各藩の領地、そして幕府の管轄する岩鼻陣屋支配地や旗本領が複雑に入り組んでいました。この時期、地域内には概ね2町163村が存在していたと記録されています。

明治維新後、行政区画の再編は急速に進みました。慶応4年（1868年）には岩鼻陣屋に岩鼻県が置かれ、旧幕府領などを管轄。その後、前橋藩による大規模な領地替えにより、多くの旧幕府領や旗本領が前橋藩領へと移されました。明治4年（1871年）の廃藩置県によって一時的に複数の県に分かれた後、同年10月の第一次府県統合で全域が群馬県（第一次）の管轄となります。この間にも村の合併が進み、明治6年（1873年）には熊谷県の管轄下に入ります。さらに明治9年（1876年）の第二次府県統合により、再び群馬県（第二次）の管轄となり、村の統合も重ねられました。

こうした変遷を経て、1878年（明治11年）7月22日、南勢多郡は行政区画として正式に発足しました。郡役所は、東群馬郡とともに「東群馬南勢多郡役所」として前橋曲輪町に設置され、両郡を管轄しました。発足時の郡域は1町157村で構成されていましたが、後に宮関村が大胡町に改称し、2町156村となりました。

南勢多郡として確立された後、1889年（明治22年）4月1日には町村制が施行され、郡内の村は大きく再編されて15の新たな村が誕生しました。この時の再編で成立した村には、現在の前橋市域に当たる南橘村、芳賀村、桂萱村、木瀬村、荒砥村、大胡村、宮城村、粕川村、富士見村、現在の渋川市域となる北橘村、横野村、敷島村、現在の桐生市域となる新里村、黒保根村の一部、現在のみどり市域となる黒保根村の一部、東村などがあります。また、一部の村は周辺の郡の町村に編入されています。

しかし、南勢多郡の存在は短命でした。1896年（明治29年）4月1日、郡制の施行に伴い、東群馬郡と統合され、新たな勢多郡（第二次）が発足したことにより、南勢多郡は廃止され、行政区画としての役割を終えました。

発足当時の南勢多郡の区域は、現在の行政区分に照らし合わせると、前橋市の広瀬川以東や中心部の一部地域、伊勢崎市の一部（磯町）、桐生市の新里町・黒保根町各町、渋川市の北橘町・赤城町各町、みどり市の東町各町および大間々町の一部（上神梅、下神梅、塩沢）など、現在の複数の市に跨がる広範な地域を含んでいました。

南勢多郡は、明治初期の行政再編の中で一時的に設けられた郡であり、近世の勢多郡が近代の新たな勢多郡へと移行する過程における過渡期の行政区画として位置づけることができます。

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