南地

南地は、現在の大阪市中央区に位置する地域を指し、かつては宗右衛門町（そうえもんちょう）、九郎右衛門町（くろうえもんちょう）、櫓町（やぐらまち）、坂町（さかまち）、そして難波新地（なんばしんち）という五つの町を総称して「南地五花街（なんちごかがい）」と呼ばれた伝統的な花街でした。

この地の歴史は、江戸時代前期に遡ります。道頓堀川の南岸に芝居小屋が立ち並ぶようになると、それと連動するように、川の北岸、宗右衛門町周辺に芝居茶屋が軒を連ね始めました。これが南地の花街としての始まりとされています。江戸時代中期には、道頓堀の南に位置する西成郡西高津村および難波村の一部が大阪三郷（大坂三郷）に組み込まれ、元伏見坂町（通称：坂町）や難波新地などが新たに開発されました。当時の公的に認められた遊廓は新町遊廓（新町遊廓）に限定されていましたが、南地にも幕府による取り締まりを巧みに逃れた遊所が点在していました。宗右衛門町にあった遊所は、天保13年（1842年）に一度整理され、道頓堀川を挟んだ南側の九郎右衛門町に移転しましたが、安政4年（1857年）には再び宗右衛門町で遊所が営業されるようになりました。

明治維新を経て、明治4年（1871年）には、南地の花街は公的に遊廓として認められることとなります。芝居小屋など芸能に関わる施設や人々が集まる地域であったため、南地は「芸所（げいどころ）」として特に名高く、大阪を代表する踊りである「芦辺踊（あしべおどり）」が上演されていました。最盛期には、芸妓の数が1,000人を超えたといわれ、娼妓もそれに次ぐ多数が在籍していました。

しかし、明治45年（1912年）1月16日、難波新地四番町の貸座敷「遊楽館」から発生した大火災、通称「南の大火」によって、難波新地の一部が灰燼に帰しました。この火災を受けて、難波新地の遊廓としての機能は廃止されることとなり、その代替地として西成郡に飛田遊廓（飛田新地）が開発されることになります。

一方、花街としての性格を維持した南地では、残った芸妓たちが結束し「南地芸妓組合」を結成しました。昭和12年（1937年）2月26日には、芸妓たちの待遇改善を求める動きから、一部が信貴山玉蔵院（信貴山玉蔵院）に籠城するという事件も起こっています。一部の芸妓が組合を離脱するなど混乱もありましたが、花街は第二次世界大戦を経て存続しました。しかし、高度経済成長期以降、都市環境の変化、特に芝居小屋の減少や、バー、スナック、あるいは性風俗店といった新たな業態の進出・拡大により、花街を取り巻く状況は悪化し、往時の賑わいは失われていきました。

さらに、行政による町名表示の変更が行われた結果、かつての五花街を構成した町名のうち、宗右衛門町を除く九郎右衛門町などが消滅しました。長年南地を代表する大規模なお茶屋であった「南地大和屋」も、2003年にその歴史に幕を下ろしました。2010年頃には、お茶屋は「たに川」が唯一軒を残すのみとなり、かつて千人以上の芸妓が華やいだ南地の花街は、その規模を大きく縮小させています。

南地は多くの名妓を輩出した地でもあります。日本舞踊家の武原はん（たけはら はん）や、後に尼僧となった高岡智照（たかおか ちしょう、出家前は東京新橋の芸妓・照葉）も、かつて南地で舞妓として活動した経験を持つなど、歴史に名を残す人物が南地ゆかりの地となっています。

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