南方占領地切手

南方占領地切手とは

南方占領地切手とは、第二次世界大戦中に日本が占領した東南アジア地域で発行された切手の総称です。1941年12月の真珠湾攻撃とマレー作戦をきっかけに、日本は東南アジア各地へ侵攻し、占領下に置きました。これらの地域では、日本軍による軍政が敷かれ、郵便事業も接収されました。その際に発行されたのが、南方占領地切手です。

概要

占領初期には、現地政府が発行していた切手をそのまま使用していましたが、やがて日本軍の印や軍政当局者の印が加刷されるようになりました。これらは「加刷切手」と呼ばれます。その後、香港とアンダマン・ニコバル諸島を除く地域では、新しいデザインの切手が発行され、これらを「正刷切手」と呼びます。正刷切手は、現地で印刷されたものと日本本土で印刷されたものがあります。

発行地と切手の特徴

南方占領地切手が発行された主な地域と、それぞれの切手の特徴について解説します。

ビルマ（現在のミャンマー）

ビルマでは、1942年6月1日に最初の正刷切手である「矢野切手」が発行されました。これは、ビルマ郵政再建委員であった矢野静雄が、ラングーン郵便局にあった事務用紙に自身の認印を押したものです。額面はなかったものの、1アンナ切手の代用として使用されました。その後、「ビルマ郵便切手」と日本語で表示された切手が発行されました。1943年2月には、国家紋章の切手がビルマ文字表記で発行され、同年8月にはバー・モウを元首とするビルマ国樹立を記念した切手も発行されました。一方で、1943年10月にはビルマ文字と日本語（カタカナ）併記の普通切手が発行されるなど、表記には揺れが見られました。また、シャン地方では「大日本帝国郵便/シャン」と表記された独自の切手が発行されました。

蘭印（現在のインドネシア）

蘭印では、軍政担当の違いから、ジャワ（陸軍担当）、スマトラ（民政官担当）、セレベス、モルッカ、西ニューギニアなどの西部地域（海軍担当）の3つに分かれて切手が発行されました。ジャワの貯金切手の一部を除き、いずれも日本語表記が伴っています。国名表記は「大日本帝国郵便・ジャワ」「大日本帝国郵便・スマトラ」「海軍民政府」でした。

英領マラヤ（マレー）

シンガポールを含むマレー各州では「マライ」、ボルネオ島では「北ボルネオ」という国名表記の正刷切手が発行されました。これらの切手も日本語表記が用いられています。普通切手の中には、日本によって「昭南」と改称されたシンガポールの「昭南神社」や「昭南忠霊塔」など、皇民化政策に関連する施設が描かれたものもあります。

米自治領比島（フィリピン）

フィリピンでは当初、アメリカ自治領時代の切手に英語表記を塗りつぶし、日本語のカタカナを加刷したものが使用されました。これは、宗主国がアメリカから日本に変わったことを示す意図がありました。1942年11月には、タガログ語表記の食糧増産運動慈善切手が発行されましたが、1943年の普通切手では「比島郵便」と日本語表記になりました。その後、フィリピン懐柔策としてホセ・ラウレル首班のフィリピン第二共和国が樹立されると、切手の表記はタガログ語に切り替わりました。

イギリス領香港

香港では、占領以前に発行されていた香港郵政の切手が使われましたが、その後は日本切手がそのまま使用されるようになりました。しかし、大戦末期にはインフレーションが発生し、内地よりも高額な切手が必要となったため、日本切手に「香港総督府　暫定参圓」などの文字を加刷した切手が発行されました。

その他

南方占領地切手は、すべて現地の通貨で表示されていました。
加刷切手の中には希少で評価額が高額なものが多く、偽物も多く出回っています。

参考文献

土屋理義『南方占領地切手・ステーショナリー』日本郵趣出版　2008年

関連項目

日本切手専門カタログ
さくら日本切手カタログ
占領統治

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