南蛮誓詞

南蛮誓詞：江戸幕府によるキリシタン摘発の誓約システム

南蛮誓詞（なんばんせいし）は、江戸幕府がキリスト教徒（キリシタン）を摘発するために行った宗門改における、独特な手法の一つです。踏み絵と並び、キリスト教徒に棄教を誓わせるために用いられた起請文であり、寺請制度における檀家となる際の手続きにも利用されました。

転びキリシタンを縛る誓約

南蛮誓詞は、一度キリスト教を棄てた者（転びキリシタン）が、再びキリスト教信仰に戻ることを困難にするための誓約システムとして機能しました。檀家に登録されるためには、南蛮誓詞のみ、あるいは南蛮誓詞と日本誓詞への血判と提出が求められました。これらの誓詞は「転び証文」または「転び書物」とも呼ばれました。

南蛮誓詞導入の背景

キリスト教禁教令は豊臣秀吉の時代から存在しましたが、江戸時代に入り、1635年（寛永12年）に徳川家光が諸大名に領民への宗門改を命じたことで、その徹底が図られました。寺院による寺請証文の発行が義務付けられ、キリスト教徒に偽って檀家の証文を与えた場合は、寺院も同罪として処罰されることが命じられました。この際、従来のキリシタン摘発方法に加え、南蛮誓詞が導入されたのです。

日本誓詞との違い

従来の日本誓詞は、日本の神仏に対してキリスト教を棄教し、二度と信仰しないことを誓うものでした。しかし、日本の神仏を信仰しないキリシタンには効果が薄いという問題点がありました。そこで導入された南蛮誓詞では、デウス（神）、サンタ・マリア（聖母マリア）、アンジョ（天使）、ベアト（聖人）など、キリシタンが信仰する対象に対して、キリシタン自身の言葉で、もし誓いを破った場合にはキリスト教の教えに基づいた罰を受けることが明記されました。これにより、キリシタンにとってより重い誓約とすることが意図されました。

民衆への影響

南蛮誓詞は、転宗者だけでなく、全ての民衆に対して町や村単位で要求されました。家ごとに全構成員がキリスト教の永久的な棄教を誓わされるという徹底ぶりでした。キリスト教徒でなければ、キリストの神による罰は意味を持ちませんが、隠れキリシタンにとっては、踏み絵と並んで耐え難い精神的苦痛を与えるものでした。南蛮誓詞は、転びキリシタンが再び信仰を取り戻す際に、大きな精神的障壁となったのです。

関連語句：

踏み絵
宗門改
起請文
転びキリシタン
隠れキリシタン
強制改宗

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