宗門改

江戸幕府の宗教政策と民衆統制：宗門改の全貌

江戸時代、江戸幕府はキリスト教の禁教令を発布し、徹底した弾圧政策を行いました。その政策の中核を担ったのが、宗門改です。宗門改は、民衆の信仰を調査する制度として始まり、キリシタンの摘発を主な目的としていました。しかし、時代と共にその性格は変化し、住民調査としての側面が強まっていきました。

キリシタン弾圧と宗門改の誕生

慶長17年（1612年）の禁教令発布後、幕府はキリスト教徒の摘発に奔走しました。踏絵や密告の奨励といった手段が用いられましたが、効果は限定的でした。そこで考案されたのが、民衆を仏教寺院に所属させ、その証明によってキリシタンでないことを確認する寺請制度です。しかし、島原の乱（1637～38年）の後、より徹底した監視体制が必要とされ、寛永17年（1640年）、宗門改役が設置されました。寛文4年（1664年）には、諸藩にも宗門改制度と専任の役人の設置が命じられ、宗門改帳の作成が全国的に広がっていきました。寛文5年（1665年）には、強硬派の日蓮宗不受不施派が禁制となり、宗門改の対象となりました。

宗門改と寺請制度：仏教勢力の活用

幕府は、宗門改において仏教勢力を積極的に活用しました。民衆を仏教宗派に所属させ、その証明によってキリシタンでないことを確認する寺請制度（檀家制度）が、全国的に広まりました。当初は転びキリシタンへの限定的な適用でしたが、寛文11年（1671年）に宗門人別改帳が法的に整備されると、武士、町民、農民を問わず、原則として特定の仏教寺院に属することが義務となりました。寺院は、幕府体制に取り込まれ、民衆に関する情報を掌握する役割を担うことになりました。しかし、この制度は、寺院の世俗化や汚職といった問題を引き起こすことにも繋がりました。

民衆調査としての側面：人別改との統合

兵農分離の後、領主は所領内の人々の把握を目的として人別改めを実施するようになりました。これは主に夫役のために不定期に行われていましたが、寛文4年以降、宗門改帳の作成が全国的に広がるにつれ、人別改帳と宗門改帳は統合され、「宗門人別改帳」が誕生しました。寛文11年には、その作成が諸藩に義務づけられ、宗門人別改帳は戸籍原簿や租税台帳としての機能も持つようになりました。キリシタン摘発の減退と共に、宗門改は民衆調査としての性格を強めていきました。

宗門改役：制度の執行とキリシタンの取り扱い

宗門改の執行を担ったのが宗門改役です。寛永17年（1640年）に設置され、大目付や作事奉行が兼任しました。幕府直轄地におけるキリシタンや宣教師の捜索、諸藩への指示・監督、棄教キリシタンの監視など、幅広い権限を持ちました。有名な切支丹屋敷は、宗門改役がキリシタンの尋問や収容に使用した建物です。宗門改役は寛政4年（1792年）に廃止されましたが、宗門改制度自体は明治6年（1873年）のキリスト教禁制の解除まで存続しました。

明治政府と宗門改：制度の継承と転換

明治政府は、江戸幕府のキリスト教禁制と宗門改制度を当初は継承しました。しかし、仏教批判の高まりや神道国教化運動などの影響を受け、明治4年（1871年）には氏子調規則を発布し、寺請制に代えて神道を基本とする制度を導入しようと試みました。しかし、明治6年（1873年）のキリスト教禁制の解除に伴い、氏子調も廃止されました。宗門改は、江戸時代を通じて宗教政策と民衆調査の両側面を持つ制度として、日本の歴史に大きな影響を与えました。その歴史的背景と変遷を理解することは、近世日本の社会構造や宗教状況を知る上で不可欠です。

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