南部馬

南部馬：歴史と特徴、そしてその絶滅

南部馬は、岩手県南部地方を原産地とする、かつて存在した日本在来馬の一種です。その歴史は古く、7世紀に朝廷が各地に牧を整備した頃から、南部地方は良質な馬の産地として知られていました。奈良時代初期には朝廷からその生産が認められ、平安時代には産馬の持ち出しが禁じられるほど重要な産地へと成長しました。

武士の台頭とともに、南部馬は名馬の産地として名を馳せました。日本在来馬は一般的に小柄な体格でしたが、南部馬は古代より重厚な体格で知られ、特に駿馬が多く、当時の武士たちにとって最高の馬とされていました。その希少性から権力者にも注目され、源頼朝は馬産に精通した家臣を南部地方に派遣、馬産振興を図りました。この家臣を祖とする南部氏が、その後長く南部地方を統治することとなります。甲斐から導入された馬との交配、牧野整備による改良を経て、大型で優れた能力を持つ南部馬が育成されました。

江戸時代に入ると、南部藩は領内に9カ所の藩営牧場「南部九牧」を設置。数頭の種牡馬と多くの繁殖牝馬が飼育され、生まれた仔馬は2歳で選別、売買されました。優秀な馬は藩が買い上げ、藩主の愛馬、神馬、あるいは幕府や大名への献上品とされました。戦乱の少ない江戸時代には軍馬としての需要は減りましたが、その頑丈さから農耕馬として広く利用されました。

明治時代以降、日本の近代化に伴い馬の重要性が増すと、南部馬の生産は更に盛んになります。農耕馬の需要増加、馬車輸送の発展、そして戦争における騎兵や兵站輸送への需要の高まりから、軍馬生産は国策となり、南部地方は軍馬供給の中心地として重要な役割を果たしました。しかし、軍馬の改良のため、サラブレッドやアラブ種などの外国馬との交配が進められ、結果として純血種の南部馬は絶滅してしまいました。

南部馬の特徴として、平均体高145.4cmという、当時の日本馬としては大柄な体格が挙げられます。また、乗馬と駄馬の二つのタイプが存在したとされています。その力強さと優れた能力は、日本の歴史の中で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

南部馬の絶滅は、近代化の過程における品種改良の必然的な結果と言えるかもしれません。しかし、その歴史と特徴を知ることで、失われた貴重な遺伝資源への理解を深めることができます。現在、南部馬に関する情報は限られていますが、残された記録や研究から、その姿を偲び、日本の馬の歴史を考える上で重要な存在として認識し続けることが大切です。

関連項目

日本在来馬
北海道和種
寒立馬
甲斐の黒駒
南部馬方節
南部の馬玩具
曲り家
南部牛

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